続いて、こうした製造業とサービス業の違いを念頭に置きながら、サービスロボットが現場に浸透しない3つの要因について解説する。
1つ目の要因としては「対症療法としてのロボット活用」が挙げられる。よくロボットの企画構想や要件定義に携わる中で、人手不足からまずは簡単な作業をロボットに代替させるところから導入検討が進められるケースを見かける。
スモールスタートで限定的な作業からロボット化の検討を進めることは良いのだが、そこで検討が止まってしまうと、ロボットが導入された作業は効率化されても、それ以降の工程がボトルネックとなってしまい、その解消のためにロボット導入後さらに人手が必要になるという事態が発生する。
これは標準化が難しいサービス業においては致命的である。顧客からの要望に対して流動的に行動する必要があるサービスにおいては、どこかにこのような皺寄せが来てしまうと、サービス全体のバランスが崩れる。ロボットを入れたことで一つの作業は効率化されても、サービス全体が破綻するといったトレードオフの関係性が生まれ、ロボットの導入は進まない。
2つ目の要因になるのが「要望が全て盛り込まれた高額なロボット」だ。冒頭でも触れたがサービスロボットは近年急速に市場が拡大しており、現場で行われるさまざまなサービス/業務を担うため、日夜さまざまな技術開発が進められている。こうした取り組みによりサービスロボットが担えるサービス/業務の範囲も増えてきた。
一方でこれらの技術やそれを支えるセンサーなどの機器は高額であり、全ての要望を聞き入れたロボットを開発すると高額になり、費用感が合わず導入に至らないと事態に陥る。
3つ目の要因は「ロボットの品質に対する過度な期待」である。先ほども触れたがサービスロボットは発展途上であるため、品質を安定させにくいという課題がある。
一方でサービス業の従事者は常に品質の良いサービスを提供することが求められる。ここで双方にギャップが生まれ、現場が求めるサービスレベルに応えることができず、ロボット導入につながらない。
このようにサービス業では質の高いサービスを「都度生産」する必要があるため、ロボットを労働力として捉える際、多くの要望の充足と高い品質を求めてしまい、費用感などが合わず、導入が進まないといった状況を生み出している。
今回はサービスロボットのポテンシャルと、サービス業の特徴に触れながら導入の拡大に向けた課題を解説した。ここまで読むと課題ばかりでサービスロボットの導入は難しいと感じられるかもしれない。だが、解決策はある。
その一つとして効果創出のステップがある(図4)。まずは従業員の時間を作るところから始め、クレームや労務負荷の削減につながるようなサービス/業務を改革し、続いて顧客満足度、従業員満足度の向上に向けたサービス/業務の改革へとステップアップするのである。
次回の後編では、人手不足という深刻な課題に直面しているサービス業におけるロボット導入のポイントと効果創出のステップについて詳しく解説する。(次回に続く)
伊澤 佑介(いざわ ゆうすけ) PwCコンサルティング合同会社 マネージャー
現職において、官公庁および民間多業界に対して、ロボットや先進モビリティおよびそれに付随する関連技術をはじめとした先端技術を起点とした各種調査/戦略策定関連業務に従事している。
最近では、サービス業におけるロボットを活用した業務高度化に向けた技術選定/適用サービス/業務選定、新規事業検討/評価支援にも従事し、幅広く支援している。
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