ロボット新戦略から約10年、ロボット市場のこれまでとこれから転換点を迎えるロボット市場を読み解く(1)(1/3 ページ)

2015年2月に日本経済再生本部から「ロボット新戦略」が打ち出されて約10年が経過した現在、ロボット市場の状況は、日本のロボット産業の状況はどうか。本連載では、転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて取り上げる。第1回は、ロボット市場のこれまでとこれからを俯瞰的に解説する。

» 2024年09月12日 07時00分 公開

 日本をはじめ世界の共通課題となりつつある労働力不足などの社会課題解決への期待、また、新たな産業創出への期待から、国内外でロボットに関連するニュースを聞かない日はない。ロボティクス領域のコンサルティングを提供する当社も、産業用ロボットからサービスロボットまで、あらゆる業界向けのロボットに関する相談を日々いただいている。2023年末に開催された「2023国際ロボット展」の合計来場者数も14万8125人と、前回2022年実績の2倍を超える盛況となった 。

 日本では2015年2月10日に日本経済再生本部から「ロボット新戦略」が打ち出され、昨今まで続くロボットブーム形成の一助となった。同戦略では、日本は産業用ロボットの導入/活用が早くから進められてきたこともあり「ロボット大国」としての地位を維持していること、また、少子高齢化を筆頭とする課題先進国としての側面を持っていること、世界的にIndustry4.0をはじめとするイノベーションの潮流があることなどを背景に、ロボット領域においてイノベーションを創出し、ロボットによる産業や社会の変革を進めていくことがうたわれていた。

 それから約10年、ロボット市場の状況は、日本のロボット産業の状況はどうか。

 足元では、いわゆるハイプサイクルのピークを越え、期待やイメージ先行ではなく、地に足の着いた本当のロボット活用が進展し始めている。一方で、AI(人工知能)とロボティクスの融合やヒューマノイドロボットの実現への世界的な投資拡大にも代表されるように、少し先を見据えたイノベーション創出の取り組みも盛んに行われている。ロボット市場は現在、これら2つのトレンドが交錯し、転換点を迎えている。ロボット関連ビジネスで成功するためにも、ロボット活用により自社の変革を実現するためにも、これら交錯するトレンドの真贋や、短期から中長期までの時間軸を見極めることが重要である。

 本連載では、その見極めに資するべく、転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて解説していく。初回となる今回は、ロボット業界を俯瞰(ふかん)し、これまでとこれからの流れの全体感を解説したい。

ロボットの用途はますます広がっていく

 ロボットは主に工場や倉庫などでの繰り返し作業に活用される、ロボットアームやマニピュレーターとも呼称される産業用ロボットと、それ以外のサービスロボットに大別される。産業用ロボットは長年、自動車産業が活用をリードしてきたが、その後に電気機械や半導体など多様な産業に活用が拡大、用途も溶接にとどまらず塗装、組み立て、ロード/アンロード、マテリアルハンドリングなどに多様化してきた。その結果、国際ロボット連盟によると2022年時点の世界の産業用ロボット稼働台数は前年比12.2%増の390万3633台にまで達している 。

 ただし、これらの用途は基本的に整えられた作業環境における定型的な業務である。ここからのロボット活用のさらなる広がりについて、当社が策定調査を担い、2023年4月に公開されたNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ロボット分野における研究開発と社会実装の大局的なアクションプラン」では、図1のように概念的に整理している。上から下がロボットの対応業務の広がり、左から右がロボットの利用環境の広がりを示しており、ロボット活用はより変化の大きい複雑な業務と環境へと拡大していく。

図1 図1 ロボット活用のさらなる広がり[クリックで拡大] 出所:NEDO「ロボット技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定のための調査」報告書よりPwCコンサルティング作成

 図1の左側にある産業用ロボットの領域でも絶えずロボット活用は高度化し続けており、ビジョン(目)やハンド(手)の技術や、AIなどのデジタル技術との融合による導入や運用の柔軟化により、これまで担えなかった、あるいは費用対効果が出なかった工程での活用が広がりつつある。今後は食品製造業や中小モノづくり企業を筆頭とする多品種少量生産工程など、いまだ人手作業が多く残る現場での採用も期待される。

 図1中央の施設管理や小売/飲食、物流倉庫などの領域では、移動型のロボットや、それにロボットアームが組み付けられたモバイルマニピュレーターの採用が広がりつつある。飲食店でよく見られるようになった配膳ロボットや清掃ロボットを筆頭に、こなれた価格の自律移動型ロボットが登場している他、経済産業省の後押しも受けたロボットフレンドリー化の取り組みによって、業務や環境側をロボットに合わせることで全体の費用対効果を高めようという動きが見られる 。

 図1の右側には、屋外や特殊環境における用途が並んでいる。これら用途ではロボットフレンドリー化のみならずロボットのハードウェア/ソフトウェアの進化や、変化する業務や環境に対応するためのデジタル技術との融合、新たなルール整備も含めた、ビジネス、テクノロジー、ガバナンスの一体的な整備が特に求められる。このためには業界としての民民連携、官民連携が重要である。例えば、屋外搬送では官民協議会が継続開催され、2023年4月の改正道路交通法の施行により、いわゆる低速/小型の配送ロボットの社会実装が実現された上で、現在はいわゆる中速/中型の配送ロボットの社会実装のための新たなルール整備の議論が進められている。また、建築では大手ゼネコン5社が幹事を務め、正会員と協力会員あわせて250社超の企業/団体が加盟する建設RXコンソーシアムにおいて、協調領域の取り組みが進められている。

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