ロボット新戦略から約10年、ロボット市場のこれまでとこれから転換点を迎えるロボット市場を読み解く(1)(3/3 ページ)

» 2024年09月12日 07時00分 公開
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課題解決のためのインテグレーションと次世代技術開発を両輪に加速

 世界的に投資を集めるヒューマノイドロボットについても、人と同じように作業できるロボットの実現を目指すことのロマンもあるものの、むしろそれら取り組みの中でどのような要素技術が進化し、どのように部分的に適用されるかを見極めることが重要と考えられる。

 一方、生成AIを含むAIの進化は、むしろ業界の想定よりも短期的にロボットの在り方を大きく変えつつある。足元ではロボットのハードウェアよりもソフトウェア側の進化のスピードが速く、産業用ロボットのような成熟度の高いハードウェアにAIが組み合わさり、システムインテグレーションの在り方が大きく変わりつつある。

 このような時間軸を見極める際のポイントは、ロボットはハードウェアからソフトウェアまでさまざまな要素技術を融合させたシステム技術であるということである。

 前述のNEDOによるロボットアクションプランにおいても、図3に示す通り社会実装加速と次世代技術基盤構築を両輪で回すことの重要性が示されている。図3の左側の社会実装の取り組みは、その時点で活用可能な“state of the art”の要素技術を組み合わせ、また、業務や環境も併せて変革し、ユーザーの課題解決に必要な要件を満たすロボットシステムとその運用を組み上げることである。

図3 図3 社会実装加速と次世代技術基盤構築の両輪によるロボット活用の推進[クリックで拡大] 出所:NEDO「ロボット技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定のための調査」報告書よりPwCコンサルティング作成

 なお、“state of the art”と表現したが、単に先端技術を使えばよいということではなく、信頼性の高い成熟した技術との組み合わせと運用の工夫で課題の解決に向き合う視点が重要である。一方で、図3右側の技術開発の取り組みは、左側の取り組みで活用可能な新たな選択肢となる要素技術を供給することが役割となる。

 図3左側の社会実装の取り組みで重要なことは、ユースケース、マーケットを自ら作り出す視点とスピードである。ベンダーはシーズ発想に陥らずニーズ起点で取り組むべきだが、一方で待っていても自社の技術/製品が生かされるマーケットが自然にできるわけではなく、能動的に市場創出する視点が必要である。ユーザーもベンダー任せにせず、また、技術に完璧を求めすぎず、運用や環境の工夫による使いこなしとのハイブリッドで効果を出す視点が欠かせない。そして、こうした技術と現場のすり合わせに、いかにスピード感をもって取り組めるかが重要である。まずは試し、試す中で可能性と課題を見いだし、技術の改良や運用の工夫を進める姿勢が日本にはもっとあってよい。

 図3右側の技術開発の取り組みで重要なことは、実現したい未来を共感を得られる形で描き、骨太なイノベーション創出に腰を据えて取り組むことと、それを担うイノベーション人材の育成である。海外では数十億〜数百億円規模の資金を調達して開発に取り組むロボットスタートアップも見られる中、日本でもより戦略的な投資が増えるとよい。そのための産官学の連携も一層重要であろう。こうした取り組みの中で次世代のリーダー人材もより層が厚くなることが期待される。

 これら両輪の結合度合いやサイクルの速さが産業競争力につながる。図3の左側と右側が、いかに対話と実践の中でつながりを持ちつつ進められるかがポイントである。世界の動きは速く、日本としても2030年の時点でもロボット大国と胸を張れるようにするためには、ここ1〜2年の間に両輪の好循環を回し、2030年までにどれだけのユースケースを創出できるかの勝負ではないかと考えている。



 今回はロボット市場のこれまでとこれからを俯瞰的に解説した。本連載では次回から、このようなシステム技術としてのロボットが、社会実装と技術開発の両面からどのような現在地にあるか、主要分野別に見ていきたい。(次回に続く)

筆者プロフィール

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瀬川 友史(せがわ ゆうし) PwCコンサルティング合同会社 ディレクター

大手シンクタンクおよび大手監査法人系コンサルティングファームにおいて、ロボット、ドローンなど先端技術の事業化および産業化をテーマに官公庁や大手企業、ベンチャー企業のコンサルティング業務に従事。現職ではロボティクスやモノづくり領域を中心に、官公庁、民間企業、研究機関に対し、先端技術の事業化、産業化に向けてビジョン策定から実行までを幅広く支援している。

PwCコンサルティング


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