近年「製品セキュリティ」と呼ばれ始めたセキュリティの新分野に関する事象を紹介し考察する本連載。今回は、「AIの今後」について筆者が必要だと考えている「3つの重要検討事項」について述べる。
前回は、AI(人工知能)という概念が登場してから、ChatGPTの衝撃的な登場以降のAIブームの現状について述べた。AI自体はそれほど新しいものではなく、筆者の生まれる前からある。AIブームは、第1期(1950年代後半〜1960年代)から、第2期(1980年代)、第3期(2000年代後半〜2010年代)を経て、現在は第3.5期(2020年代〜現在)となっている。
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この第3.5期のAIブームの主役は、「生成AI」と「AIエージェント」だ。過去のブームが「技術的限界」や「実用面の壁」によって衰退したのに対し、今回のブームは自然言語で誰でも使えるという点で決定的に異なる。
AIは今や専門家や技術者だけのものではなく、PCやスマートフォン、Webブラウザを通じて世界中の多くの人々が利用できるようになった。この「汎用性」と「民主化」こそが現在のAIブームの本質であり、AIは知識や知能を安価かつ高速に提供する社会インフラになりつつある。このように、AIがIT革命に匹敵する社会変革であり、今後のビジネスや社会の在り方を根本から変えていく可能性があることを述べた前回の最後を踏まえて、今回は「AIの今後」について筆者が必要だと考えている「3つの重要検討事項」について説明する。
現在の生成AIは、すでに多くの人にとって「便利な相談相手」になりつつある。例えば、分からないことを尋ねれば、すぐに答えてくれる。文章を書かせても、それなりのレベルの原稿を出してくる。
資料の構成案も、メールの文面も、プログラムの断片も、こちらが指示を出せば即座に返してくれる。しかも、新入社員や経験値の少ない若年層の従業員に依頼するよりも、高いレベルのアウトプットを提示してくれる。アウトプットの質としては、まだまだ一長一短となる事も多いが、少なくともスピードや量は圧倒的だ。少し前までなら、これだけでも十分に画期的なツールであっただろう。
しかし、AIの進化はそこで止まらない。むしろ今後の本命は、単に「答えるAI」ではなく、自ら考え、必要なツールを使い、作業を進める「AIエージェント」になる可能性が高い。これまでの生成AIが優秀な「部下に質問をしている」ようなものだったとすれば、AIエージェントは、「ある程度まとまった仕事を任せられる実務担当者」となるのだ。
例えば、「来週の会議資料を作っておいて」と指示すれば、関連資料を調べ、過去の議事録を参照し、必要なグラフを作り、プレゼン資料の下書きまで作成する。あるいは、「この機能のテストをしておいて」と命じれば、仕様書を読み、テストケースを作り、実行し、結果をまとめてくれるのだ。
もちろん、優秀な人材と同様に、全てを任せ、フェーズごとにプロセスや結果だけを管理すれば済むわけではない。それでも、AIは「人間の問いに答えるもの」から「人間の目的を実行するもの」へと移りつつある。
このAIの役割の移行はまだまだ始まったばかりだ。これが本格化すると、人間が仕事をすることの意味自体が大きく変わる。これまでは、人間が手を動かし、細かな作業を積み上げることが仕事の中心だった。一方、AIエージェントの時代には、人間は作業者であるよりも、目的を設定し、条件を与え、成果を評価する「指揮者」のような役割に近づいていく。重要なのは、「何をさせるか」「どこまで任せるか」「どの結果を採用するか」を判断する力となる。これは、従来のビジネス環境を大きく変える可能性がある。
AIの変化や進化は、従来よりも圧倒的な便利さを生むだろう。しかし、このAIの進化は便利さの向上だけを意味しない。AIが実際に業務システムや開発環境、クラウドサービス、社内データにアクセスするようになれば、そこには当然ながら新しいリスクが生まれる。
AIが誤った判断でデータを削除したらどうするのか。機密情報を外部サービスに送信してしまったら誰が責任を取るのか。与え過ぎた権限を悪用された場合、その被害は従来の人間による操作ミスよりも「速く、広く拡大する」かもしれない。
つまり、AIエージェントの時代というのは、単にAIが賢くなるという所に収まる時代ではなくなる。AIに仕事を任せるための設計、監視、権限管理、責任分界が問われる時代になるのだ。
人間はAIに置き換えられるのではなく、AIを使ってより高い位置から仕事を組み立てる存在になる。しかし、その変化に人間が適応できなければ話は大きく異なる。多くの人が従来の作業ベースの働き方から、このような高度な仕事の組み立てができるようになるかどうかが、次の時代がどうなるかの大きな分岐点になるだろう。読者の皆さんのほとんどは、5年後にはAIを使える高度な仕事ができるようになることが求められるだろう。
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