エッジにも浸透する生成AI、組み込み機器に新たな価値をもたらすかMONOist 2025年展望(1/3 ページ)

生成AIが登場して2年以上が経過しエッジへの浸透が始まっている。既にプロセッサやマイコンにおいて「エッジAI」はあって当たり前の機能になっているが、「エッジ生成AI」が視野に入りつつあるのだ。

» 2025年01月08日 07時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

 AI(人工知能)技術の進展に新たな息吹を吹き込んだ、ChatGPTに代表される生成AIが登場して2年以上が経過した。もはや生成AIの存在は当たり前になりつつあり、日常生活に用いられるスマートフォンやPCに生成AIを活用した機能が搭載されるようになっている。

 2015年ごろにGPUを用いたディープラーニングによって始まった第3次AIブームにおいて、当初はクラウドやサーバ上での運用が当たり前だったAI技術は、数年のタイムラグを経てエッジに浸透し「エッジAI」としての技術開発が進んでいった。現在では、半導体メーカーが提供するプロセッサやマイコンは、NPU(Neural Processing Unit)やAIアクセラレータなどの機能が搭載されるようになっており、もはやエッジAI機能はあって当然のものになっている。

 そして生成AIも、かつての第3次AIブームと同様にエッジへの浸透が始まっている。もちろん、クラウドやサーバで運用するようなパラメーター数が数百億〜数兆レベルの巨大なLLM(大規模言語モデル)をそのままエッジで利用できるわけではない。しかし、パラメーター数が数億〜数十億レベルのSLM(小規模言語モデル)も登場しており、プロセッサの性能向上と量子化技術などとの組み合わせによりエッジへの実装は十分可能な状況になっている。いわゆる「エッジ生成AI」が視野に入りつつあるのだ。

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成長が続くエッジAI市場

 ここで、エッジAIの市場規模がどのように捉えられているのかを確認しておこう。

 総務省の令和6年情報通信白書によれば、2023年度の国内エッジAI分野の製品/サービス市場規模は150億円。そこから年率27.4%で成長し、2027年度には約370億円まで拡大すると予測している。なお、ここで言うエッジAI分野の製品/サービスには、最大のキラーアプリケーションといえるAIカメラに加えて、AIハードウェア、AIソフトウェアなどが含まれている。

国内エッジAI分野の製品/サービス市場規模の推移と予測 国内エッジAI分野の製品/サービス市場規模の推移と予測[クリックで拡大] 出所:総務省/デロイト トーマツ ミック経済研究所「エッジAIコンピューティング市場の実態と将来展望 2023年度版【第3版】」

 一方、グローバルのエッジAIの市場規模については、2032年にAIカメラが277億米ドル(約4兆3700億円)、エッジAIハードウェアが159億米ドル(約2兆5100億円)、エッジAIソフトウェアが23億5000万米ドル(約3710億円)まで拡大するという予測も出ている(Market Reserach Futureの調査レポート)。この予測でも年平均成長率は20%を超えており、市場予測の観点ではエッジAIは“宝の山”のようにも思える。

エッジAIが求められる3つの理由

 生成AIであれ、通常のAIモデルであれ推論実行の性能や効率だけを考えれば、エッジではなくクラウドやサーバで行う方が有利だ。しかし、このようにエッジAIの市場成長が見込まれる背景には3つの要因がある。

 1つ目は「プライバシーの保護」だ。クラウドやサーバにデータを収集するという行為自体が個人情報の漏洩につながる恐れがある以上、個人情報に関わるデータのAI処理をエッジで行えば、その恐れそのものをなくすことができる。

 2つ目は「通信の負荷低減とクラウド/サーバの負荷分散」である。クラウドやサーバでAI処理を行うということはデータを通信で送る必要があるが、それが画像データの場合、通信負荷はより大きなものになる。エッジAIで処理した上で、CSVデータなどの形でクラウド/サーバに送るのであれば通信負荷は大幅に削減できる。また、近年のクラウド/サーバは電力不足が大きな課題になっている。先ほど性能や効率だけを考えればクラウド/サーバが有利と書いたが、電力不足への対応を考えるとエッジAIへの負荷分散は必要不可欠な状況になっている。

 3つ目は「低遅延処理」だ。工場における外観検査のように、AIの処理結果をできる限りリアルタイムで利用したいという現場は多数ある。クラウドやサーバへの通信を行うことなくその場で結果が得られるのはエッジAIならではの最大の利点といえるだろう。

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