はやぶさ2は小惑星までどうやって向かうのか? 〜ミッションシナリオ【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(6)(3/3 ページ)

» 2013年02月15日 11時00分 公開
[大塚実,MONOist]
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小惑星への滞在期間が長くなった理由

 1999JU3への到着は、前述の通り2018年6〜7月。離脱するのは2019年12月の予定で、小惑星に滞在するミッションフェーズ(先ほどの図中の緑色)の長さは、およそ1年半ということになる。

 津田氏によれば、軌道としては「もっと早く帰ろうと思えば帰れる」とのことだが、滞在期間を長く取っているのは、「初代はやぶさの目的は“工学実証”だったが、はやぶさ2では“サイエンス”がミッションの大きな目的。より確実に成果を得るために、十分余裕を持たせた結果だ」(同氏)という。


小惑星「1999JU3」へ到着した「はやぶさ2」の想像図 小惑星「1999JU3」へ到着した「はやぶさ2」の想像図。1999JU3の大きさや形状などは、まだ正確には分かっていない(©池下章裕)

 初代は、2005年9月にイトカワに到着。2007年6月に地球へ帰還するため、2005年の12月中には離脱しなければならず、わずか3カ月の猶予しかなかった。この間に、イトカワの科学観測を行い、2回のタッチダウンやその前のリハーサルなども実施しているので、かなりの過密スケジュールであったことが想像できる。

 津田氏もこの運用にスーパーバイザー(責任者)の1人として参加。「3カ月というのは本当に短く、着いたらすぐに帰るような感じだった。いろんなことに大忙しで、寝る時間もなかった」(同氏)と当時を振り返る。

 こうした“修羅場”を経験したことで、運用に「自信は付いた」(同氏)ものの、このような限界ギリギリの環境は決して理想的ではない。初代では、2回目のタッチダウンで「プロジェクタイル(弾丸)」が発射されなかったとみられているが、これももっと時間的な余裕があれば十分なチェックができて、プログラム中のミスを防げたかもしれない。

 そのため「はやぶさ2」では、「じっくりやれるような計画にしようとしている」(同氏)という。初代では、イトカワが予想外の形状であったため、当初考えていた自律降下の方法が使えず、現地に到着してから、新しい手法を開発したこともあった。時間的な余裕があれば、想定外の事態にも腰を据えて対応できる。

 また「はやぶさ2」には、インパクタという、初代にはなかった装置もある。一歩間違えれば探査機を全損する危険性もあり、この装置の使用時は特に慎重な運用が求められる。もし、初代にもインパクタがあったとしたら、「とても3カ月では無理だろう」と津田氏は答える。

 上記の他、実はもう1つ「“1年半”でないといけない理由」が存在する。それはイトカワでは問題なく、1999JU3ならではの問題といえるのだが……。その説明は、次回【後編】に託すことにしたい。 (次回に続く)

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筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


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