いよいよ、小惑星探査機「はやぶさ2」が帰ってくる。2回のタッチダウンで取得したサンプルを地球に送り届ける最後の関門となるのが地球大気圏への再突入だ。そのために使われる「再突入カプセル」は、はやぶさ初号機と比べ主に2つの点で改良が施されている。
前編では、再突入カプセルがどうやって高熱から身を守り、小惑星の貴重なサンプルを地上に届けることができるのか、仕組みの概要を説明した。はやぶさ2の再突入カプセルは、基本的に初号機とほぼ同じ設計なのだが、主に2つの点において改良が施されている。初号機から何が変わったのか、前編に引き続きJAXA(宇宙航空研究開発機構) 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授の山田哲哉氏の話を基に、本稿で詳しく見ていこう。
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改良の1つ目は、開傘トリガーの完全冗長化である。開傘トリガーというのは、減速用パラシュートを開くタイミングを決めているものだ。これには、FPGA上で動作する2つのタイマー「T2」「T7」が関係している。
この2つのタイマーは、T2がメインでT7がバックアップという関係になる。基本的にはT2によるタイミングで開くが、もし何らかの理由で作動しなくても、T7のタイミングで開くようになっているので、地面への激突を避けられるというわけだ。ちなみにT2/T7という名前に特に意味はなく、他の用途でT1やT3〜T6も使われている。
はやぶさ2の再突入カプセルは、高度10kmでパラシュートを開く予定であるが、問題はどうやって現在の高度を推定するか、ということだ。選択肢としては、GPSや気圧計などさまざまなセンサーが考えられるだろうが、T2タイマーが利用しているのは加速度センサーの計測値だ。
T2タイマーは、加速度センサーが5G(予定値)を検出したタイミングで開始。あらかじめ、5Gを検出してから目標高度に到達するまでの時間をモンテカルロ計算で求め、その中央値を母船経由でカプセルに送信し、T2にセットしておく。大気密度の変動などで開傘高度に誤差は生じるものの、この方法は精度が高く、分散は±1km程度に抑えられる見込みだ。
しかし、T2が正常に機能するためには、加速度センサーが健全であることが必須条件。もし加速度センサーが壊れていても大丈夫なよう、よりシンプルな構成になっているのがT7タイマーである。T7は、カプセル分離からの飛行時間を指定する。分散は±3km程度と大きくなるものの、センサーが不要なので非常にロバストである。
T2/T7のいずれか早い方でパラシュートは開く。ただ精度の高いT2で目標高度を狙い、T7はバックアップであるため、T7はT2より遅くなるよう値が調整されている(状態試験の後に決定予定)。
これら2つのタイマーを使う方法は、初号機でも同じだったのだが、実は初号機では、2つのタイマーの値を完全に独立した形でセットすることができなかった。例えば、T2を変更するとT7もそれに引っ張られてしまったのだが、はやぶさ2はFPGAが2つに増えたため、この制約がなくなった。これで「本来あるべき姿になった」(山田氏)といえる。
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