転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて取り上げる本連載。最終回となる第6回は、米国と中国が先行する汎用ロボットについて解説するとともに、日本がロボット大国に返り咲くために何が必要なのかを論じる。
本連載の開始から、早くも半年が経過した。この間にもロボットに関する多くの新たな取り組みが生まれ、期待は高まり、競争は激しくなる一方である。その中でも、AI(人工知能)やヒューマノイド(人型ロボット)など、汎用的なロボットシステムの実現に向けた取り組みは特に注目を集めている。最終回となる今回は、こうした技術の進化を読み解き、今後のロボット市場の方向性と、その中で日本が競争力を発揮し続けるためのポイントについて考えてみたい。
⇒連載「転換点を迎えるロボット市場を読み解く」バックナンバー
昨今、これまでデジタルの世界に閉じた利活用が中心であったAIの進化が物理世界にも染み出してきており、ロボティクスなどの機械システムとの融合も進みつつある。生成AIを筆頭とする近年のAIの進化は、主にテキストや画像を対象に、デジタルで閉じたデータ処理の効率化や自動化に寄与してきた。これがセンサーデータや機械の制御データも対象に含むようになり、現実世界の物理法則を捉えながら、機械システムの制御を通じて物理的な作業も担う「Physical AI(フィジカルAI)」という概念が登場している。
このようなAIの進化を捉え、ヒューマノイドを筆頭とする汎用ロボットが注目を集めている。これまでの産業用ロボットも、センサーやハンド、制御ソフトウェア、周辺装置と組み合わせてシステム化することでさまざまな用途に使えるという意味では汎用的であったが、ここではハードウェアとソフトウェアが統合されたロボットシステムが、広範な作業/用途に活用可能なことを指す。二足歩行を伴うヒューマノイドのみならず、下半身は従来通りの車輪型で上半身のみヒト型のいわゆるセミヒューマノイド、汎用的な構成としたモバイルマニピュレーターも広義には含まれるだろう。
こうした汎用ロボットが、工場や倉庫での各種作業、家庭での洗濯や片付け、調理など幅広い作業を行う動画がほぼ毎週のように新しく公開されている。これらの多くは米国と中国によるものだ。米国では著名な大学やビッグテック出身者を含む開発チームを持つスタートアップが、数百億~1000億円規模の資金を集め、基盤モデルなどのAI起点でヒューマノイドに取り組んでいる。いわゆるGAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon.com、Microsoft)をはじめとするビッグテック各社も、こうしたスタートアップへの出資や協業を通じ、本領域に目を配っている。
中国でも同様にスタートアップが数百億円規模の資金調達を行いながら研究開発に取り組んでいるが、加えて、国策としてもヒューマノイド領域に注力しており、地方政府からも数千億円規模の支援策が打ち出されている。取り組みの力点としても、AIはもちろんのことハードウェアとその動作制御にも注力している様子がある。坂道を含む走破能力や、急加速/停止、バク転、ダンスといったパフォーマンスなど、ロボットの運動能力をPRする傾向があり、また、主には研究開発用途ではあるが、既に安価なヒューマノイド製品も上市しつつある。
これらに対し日本でも、産官学連携による取り組みが強化されつつある。産学かつ業種横断のチームから成る日本発のロボット基盤モデルの構築に取り組む一般社団法人が設立された他、経済産業省でも「AI基盤モデル及び先端半導体関連技術開発事業等」の実施を予定しており、その中でロボティクス分野の生成AIに関する基盤モデルの技術開発を支援することがうたわれている。
一方で日本がこれまで産業用ロボットの領域で培ってきた高度な動作制御の技術をいかに活用するかもポイントとなる。ここについては、まずはアーキテクチャの変革、システムインテグレーションの在り方の変革が重要であり、経済産業省による「ロボティクス分野におけるソフトウェア開発基盤構築事業」および「デジタル・ロボットシステム技術基盤構築事業」も予定されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.