衝突体については、はやぶさ2計画の初期から検討されていたが、最終的に選択された「衝突型」以外にも、当初はさまざまな形態が考えられていた。
中でもユニークなのは、探査機本体とは別に、もう1機を「衝突機」として同時に打ち上げる「独立型」案の存在だ。ほぼ既存技術のみで開発が可能で、クレーターのサイズも最大規模を見込めるのだが、コストが掛かることから採用は見送られた。
その他、ペネトレータを撃ち込んで爆発させる「炸薬型」、探査機本体が表面を掘る「掘削型」などが考えられたが、サンプル汚染が少ないこと、技術リスクが低いこと、開発コストが安いことなどのメリットから、インパクタを搭載する衝突型が採用されることとなった。特に「はやぶさ2」は開発期間が短いため、技術リスクの低さは重要なポイントとなったようだ。
この衝突型では、衝突体を瞬時(1ms以下)に加速できるため、誘導制御を行わなくてもいいというメリットがある。これに対して、ロケットで加速するペネトレータの場合は、加速距離が長くなるために、誘導制御は不可欠である。その結果、システムが複雑化してしまうという問題がある。
「探査機の開発において、われわれが一番難しいと思っているのは、常に質量に余裕がないことだ」と佐伯助教は話す。米国のように、強力なロケットがあって、予算も多ければ、いろいろな装置をどんどん載せて、大きくて複雑な探査機も作ることができる。しかし、日本のH-IIAロケットでは数トンもあるような巨大な探査機を打ち上げることはできない。
搭載スペースや重量に余裕があれば、誘導制御も日本の技術力で実現可能だ。だが、インパクタに要求されたのは20kg以下で作ること。「とにかくシンプルに作らなければならない。そういうところに一番難しさがある」(佐伯助教)という。
インパクタは初搭載の装置である。理想を言えば、1回失敗しても大丈夫なように、同じものを2台持って行ければベストなのだが、「『はやぶさ2』の底面は、探査機の中の一等地」(佐伯助教)。観測装置で混み合っており、スペース的にも全く余裕がないため、インパクタは1台しか乗せることができない。初代に搭載された探査ローバー「ミネルバ」の例もあり、“一発勝負”には不安もあるが、こればかりはどうしようもない。
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