IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。最終回となる第60回は、連載を展開してきた5年間のRTOSの動向をまとめる。
本連載「リアルタイムOS列伝」は今回で最終回となる60回目を迎える。よく60回も続いたものだという気もしなくもないが、それだけ多くのリアルタイムOS(RTOS)が世の中には存在しているという話でもある。
60回の連載のうち「Mbed OS」や「ThreadX」については複数回説明したので重複はあるが、それでも軽く50以上のRTOSが世の中には存在する(した)。ついでに言うと、今回の一連の連載で取り上げようと思ったものの、資料が足りずに諦めたものもいくつかある。主に商用製品として提供されているもので、例えばBosch rexrothの「ctrlX OS」やGreen Hills SoftwareのRTOS製品などがそれに当たる。
これらはメーカーのブローシャ以上の情報がどこにもなく、記事がブローシャと全く同一になりかねないので今回は割愛している。また最近RTOS的に使われるものの一つにAGL(Automotive Grade Linux)が無視できない勢力になって来たのだが、AGLがRTOSか? と問われるとちょっと違う気がするので、この一連の連載では取り上げていない。同様に、過去のRTOSの中でも資料が手に入ったもの(「VAXELN」や「RT-11」など)はご紹介したが、GEC DOS(英GEC ComputersのGEC 4000シリーズで動作したRTOS)のようにもう名前しか情報が残ってないものも省いた。こうしたものまで全部拾うと、100近くのRTOSが存在するのではないかと思われる。
ではそれらのRTOSが全て使われているか? というとそんなわけもない。特に大学や研究機関で開発されたRTOSは、何かしらの研究プロジェクトのために利用されることが多いが、その研究プロジェクトが完了するとメンテされずに放置、というパターンが非常に多い。そういう意味でも、この連載の中で紹介したRTOSのうち、現在もアクティブに使われており、またメンテナンスもしっかりされているものというと10を切るのではないかと思う。
現時点で広範に使われているRTOSとなると、フリーのものは「FreeRTOS」か「Zephyr」ということになるだろう。
FreeRTOSに関してはもともと広範に使われており、かつ構造もシンプルでありながら、特にAmazon.comに買収されてクラウドのAWS(Amazon Web Services)とのコネクティビティが極めて便利かつ充実した(主要なMCUベンダーが、自社の評価ボードにFreeRTOSをAWSへのコネクティビティ付きでリリースしている)。このこともあって、手軽にAWSを使うならFreeRTOSが一番、という評価がほぼ確立している。
APIもシンプルというか、あまり凝ったことをしなくても使えるという点が評価されている。もちろん欠点も幾つかあり、例えば標準ではPOSIX APIに準拠していないことが時々挙げられるが、既にFreeRTOSでPOSIX APIを使うための取り組みも進んでおり、限定的ではあるがPOSIX APIを利用できるようになっている。今後、FreeRTOSはこのままエントリー向けRTOSのポジションで不動の地位を確保しそうに思える。
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