エッジコンピューティングの逆襲 特集

DECとともに消えた名機VAX向けRTOS「VAXELN」の栄枯盛衰リアルタイムOS列伝(47)(1/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第47回は、DECがかつて提供していたVAXという32ビットミニコンピュータ向けのRTOS「VAXELN」について紹介する。

» 2024年06月03日 07時00分 公開
[大原雄介MONOist]

 名前からしてお分かりの方もおられようが、今回ご紹介する「VAXELN」は名前の通りDEC(Digital Equipment Corporation)がかつて提供していたVAXという32ビットミニコンピュータ向けのリアルタイムOS(RTOS)である。

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組み込み用途でも利用されていたDECのPDP-11

 そろそろDECの名前も旧聞に属するようになってきたかと思うので簡単に説明しておこう。DECは、1957年に米国マサチューセッツ州で創業したコンピュータメーカーである。何でマサチューセッツかというと、創業者であったKen Olsen氏とHarlen Anderson氏がMIT(マサチューセッツ工科大)のLincoln Lab(リンカーン研究所)で働いていたからである。

 当時2人がLincoln Labで作り上げた、トランジスタコンピュータとして知られるTX-0や、その後継のTX-2が学内で大人気だったことを見て、後にスーパーミニコンと呼ばれるジャンルのマーケットに期待が持てる、と考えたらしい。1958年にはTX-2をベースにしたDigital Laboratory Moduleを初出荷、1960年にはPDP-1という18ビットのミニコンピュータを発売し、以後はPDP-4、同5、6、7、8、9、10、11、12、14、15といった製品を世に送り出し始める。ちなみにPDP-1/4/7/9/15が18ビット、PDP-5/8/12/14が12ビット、PDP-6/10が36ビット、PDP-11が16ビットのアーキテクチャとなっている。このPDPシリーズは、DECをコンピュータ業界でNo.2のポジションに押し上げた(No.1は言うまでもなくIBM)立役者であり、広範に利用されることになった。

 さて、上記のリストでも分かるように当時は12、16、18ビットと、その延長の36ビットなどが混在している(業界的にも、まだ12/18ビットと16ビットのどちらが優位か判断つきかねていた)時期である。そんな中で結果的に16ビットのPDP-11が広範に使われることになる。“広範”というのは、ターミナルを接続して複数のユーザーに対してインタラクティブに計算能力を提供するという、いわゆるTSS(Time Sharing System)環境から機器制御などの組み込み用途までいろいろな用途に使われたという話である。PDP-11の性能は(これも最初期から最後までで随分幅はあるが)、Dhrystone V2.1の結果で言えばPDP-11/34が0.25DMIPS、PDP-11/70が0.70DMIPSほどとされる。ちなみにIntelの8086が0.44 DMIPSなので、ここからその性能が想像できるかと思うが、それでも当時としてはかなりパワフルなものだった。

 そのPDP-11だが、複数ユーザーが利用できるインタラクティブな環境向けにはRSX-11と呼ばれるOSが提供された(これも厳密には単純化し過ぎで、実際にはRSX-11A/B/C/D/M/MPlus/Sと多数の派生型があったのだが、これを言い始めるときりがないのでやめておく)。余談だが、このRSX-11のユーザーインタフェース(というかコマンドインタープリタ)はCP/Mに影響を与え、それがMS-DOSにも引き継がれている。

 その一方で、PDP-11を機器制御やリアルタイムのシステム制御に使いたいというニーズもあり、こうしたものに対してはRT-11というRTOSが利用された。RT-11はSingle UserのOSで、当然Single Taskである。一応KMON(Keyboard Monitor)と呼ばれるユーティリティーを経由して、ユーザーはコンソールやターミナルから対話的にプログラムを呼び出して実行したり、ファイルシステムの操作を行ったりすることも可能だった。とはいえ、本質はRTOSであり、PDP-11を組み込んだシステム用のOSとして、PDP-11と同じくらい長期間使われていた(というか、いる:恐ろしいことに、いまだにPDP-11を組み込んだ機器は世の中で稼働している。さすがに数は猛烈に少なくなっているが)。

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