もっとも1990年代に入ると、米軍でもCOTS(Commercial Off-The-Shelf:商用製品の軍用利用)が次第に増えて来た関係で、必ずしもAdaを使わなくても利用できるようになってきた。これを受けてVAXELNも軍用以外の用途を拡充すべく、POSIX APIやネットワークサポートの追加(当初からDEC独自のDECnetのサポートはあったが、これにTCP/IPのサポートを追加した)などを施して新たなマーケットの開拓を狙った。ただ、DECはVAXELNのサポートをVAXに限り、VAXの次世代アーキテクチャであるAlphaへのVAXELNの移植を行わなかった(その代わりにDECはVxWorksについてAlphaのサポートを行った)。
理由の一つは、この当時DECはVAXとAlphaに加え、MIPSベースの製品も混在しており、このMIPSベースの製品向けにはDECelx(Ultrixと呼ばれるDEC独自のUNIXにリアルタイム拡張を行う、POSIX準拠のAPIを持ったToolkit)も提供しており、そろそろ製品を絞っていかないといけない時期になっていた(図1)。また、VAXELNの生みの親だったCutler氏も、DECが1980年代後半に進めていたPRISM(Alphaの前身である)というRISCプロセッサの開発中止を巡って上層部と対立し、1988年にDECを退社してしまっている。
それでもVAXが売られる限りはVAXELNも生き延びたのかもしれないが、1998年にDECがCOMPAQに買収された翌年の1999年8月、旧DECの組み込み部門とその製品群はまとめてSMART Modular Technologiesという会社に売却され、VAXELNもこれに含まれることになった。SMART Modular Technologiesそのものはまだ存在する(https://www.smartm.com)が、1999年に一度Solectronに買収され、その後2004年に独立し、2011年にSGH Holdingsとして再出発した上でSMART Modular Technologiesを再び子会社化するといった複雑な動きをしており、しかもその過程でApexData/NEC Do Brasil Memory Module Division/Penguin Computing/Aetesyn Embedded Computing/Inforce Computing/Cree LED/Stratus Technologiesなど多数の会社を買収してラインアップに加えている間に、VAXELNはどこかに消えてしまった。そんなわけで、VAXELNというRTOSは、既に名前だけしか残っていない。
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