規模の大きな大学には、「交換留学生制度」があります。学生たちが国際感覚を学び、視野を広げるために、相手国の大学に生徒を派遣したり、逆に受け入れたりする制度です。企業における「出向」に近いかもしれません。
日本の技術者が海外のソフトウェア開発会社へ出向すると、日本の品質管理は異常に厳しくて、過剰品質かもしれないと思うでしょうし、海外の技術者が日本に来ると、ソフトウェア開発における日本人の几帳面(きちょうめん)さ、真面目さを肌で理解できるはずです。
筆者は、“ソフトウェア開発における交換留学生制度”を促進することで、それぞれの国の技術者は、相手国の文化や社風を十分に理解したプロフェッショナルになり、相互理解が深まると考えます。
外国人研修生の受け入れや、新人研修で特に留意すべきことは、日本に派遣された外国人技術者が、日本の企業風土や文化に溶け込めるかどうかです。ここがうまくいかないと、メンタル面で大きな影響を及ぼします(場合によっては、うつ病などを発症することも)。この状況を表したのが図1です(W字曲線として紹介している場合もありますが、研修段階はU字曲線で十分説明できます)。この曲線は、X軸を時間、Y軸に研修生の満足度をプロットしたものです。
海外から来た研修生は、世界で最もハイコンテキストな文化(空気を読み、目と目を見れば、少ない情報で理解できる文化:詳細は、前回のコラムを参照)を持つ日本に適応しなければなりません。
日本のソフトウェア開発現場では、日本人が外国人に対して放つ鋭い視線の意味や周囲の空気を読まなければ、コミュニケーションは成り立ちません。しかし、来日して間もない海外研修生にそんなことを期待するのは現実的ではありません。言語面でも、来日前に日本語の読み書きは、一応勉強してきたとしても、例えば、文章の読み書きをビジネスレベルでこなすことは困難でしょう。外国人技術者が日本社会に適応するためには、かなりの時間と学習が必要になることは容易に想像できます。
先ほどの図1を見ますと、最初は新しいことを始める“期待感”や“高揚感”から満足度は非常に高いのですが、現実を見ると徐々に満足感は下がっていきます。これは“自分と異文化の摩擦”であり、いわゆる「カルチャーショック」です。次第に、「何で上手く行かないんだろうか?」と自分に自信を持てなくなります。これが図1における「自己崩壊」の部分です。つまり、理想と現実とのギャップに悩み苦しむわけです。そして、“どん底(危機)”を脱出すると、徐々に異文化に慣れていき、安定期に入ります。ここのステージになると、安心して仕事を任せることができるようになります。
このように、日本側の受入れ企業の教育担当者は、異文化適応曲線と自分の経験を基にして、海外の人材を育てる必要があるのです。
「ソフトウェアの海外発注は難しい」といわれますが、実際に、何が大変なのかを実感することは簡単ではありません。単なる「開発プロセスの違い」による相互摩擦という表面的な問題ではなく、「文化の違い」という極めてディープな課題に正面から向き合う必要があります。この課題の1つが、相手の文化を理解する異文化受容です。日本国内であっても、嫁ぎ先で大きなカルチャーショックを受けるケースは数え切れません。これが国や文化の違う者同士が協力して進めるオフショア開発ともなると、文字通りのカルチャーショックが山積しています。焦らずじっくりと、これを乗り越えることが「成功するオフショア開発」の第一歩となります。(次回に続く)
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