あなたの現場では、ソフトウェアの品質管理の考え方をきちんと生かし切れていますか? @IT MONOist編集部では組み込みソフトウェアの品質管理をテーマにしたゼミナール「組み込みソフトウェア開発で問われる品質力」を開催。組織における品質管理の考え方や、実際の開発現場におけるツールの活用・導入に関する事例などが披露された。
ソフトウェアの品質管理をあらためて見直すことで、品質向上のみならず、手戻りコストの削減、開発効率の向上が期待できる――というと、「そんなことは分かり切っている」「うちはとっくに取り組んでいる」など、さまざまな意見が聞こえてくる。では、“実際の開発現場で品質管理の考え方をきちんと生かし切れているか”という問いに対してはどうだろうか。「Yes(イエス)!!」と自信を持って答えられる組織はそれほど多くはないだろう。
とりわけ、長年にわたり保守・開発を繰り返されてきたような組み込みソフトウェアは、当初の設計範疇(はんちゅう)を大きく飛び越え、システム全体が年々複雑化・大規模化し、品質管理が難しくなってきている。そんな状況において、さらにスピード重視の開発・出荷競争や世界的な不況の影響などが追い打ちを掛け、組織として、品質・コスト・開発スピードのバランスをどのように保つべきなのか、非常に悩ましい問題となっている。
こうした課題を踏まえ、@IT MONOist編集部では組み込みソフトウェアの品質管理をテーマにしたゼミナール「組み込みソフトウェア開発で問われる品質力」を2012年3月1日に開催。業界有識者を招き、組織における品質管理の考え方や、実際の開発現場におけるツールの活用・導入に関する事例などが披露された。本稿では、その一部をダイジェストとしてお届けする。
同ゼミナールの基調講演に登壇した、東洋大学 経営学部 准教授 野中誠氏は「バグに学び、組織が賢くなるソフトウェア品質マネジメント」というテーマで、ソフトウェアの品質管理の考え方と、バグを的確にとらえ、それをどのようにしてプロジェクト管理やレビュー、プロセス改善などの活動に生かすかを説明。野中氏は「品質にしっかりと取り組めば、組織は賢く、強く、幸せになれる」というキーメッセージを掲げた。
では、そもそも“品質にしっかりと取り組む”とは何なのか。
ソフトウェア品質、あるいは品質管理というと、“バグの除去”に目がいってしまいがちだが、野中氏は「まず、そのソフトウェアが顧客にどのような価値を提供するものなのかを考え、さらに組織として顧客満足を維持し続けていくために必要な活動とは何かを考えることが重要だ」と語る。また、「顧客に価値を提供できるソフトウェアをいち早く市場投入するためには、開発スピードの“足かせ”となるバグをどうやって検出・除去するのか(検出・除去技術をどうするのか)を考える必要がある。そして、バグ混入の予防に向けた活動を組織として継続することが大切だ」(野中氏)と説明する。
バグの除去が目的ではなく、ソフトウェアを通じて顧客にどのような価値を提供できるのか、価値あるソフトウェアをいかにスピーディーに顧客に提供できるか、そのために必要な活動とは何かという視点を持つこと、これをまず組織として定義し、実施することから始めなければならない。
そして、こうした一連の活動から得られた知識・経験を、再度、組織にフィードバックし、次につなげていくことが重要である。「この積み重ねにより、組織が賢く、強くなり、その結果、幸せになれる」というのが野中氏の考えだ。昨今の経済環境の悪化で、品質活動に対する投資は苦しい面もあるが、ソフトウェア開発を加速させるためのバグ検出に対するエンジニアリングとしての取り組み、そして、それを支える組織としての取り組みをどう考えていくかが大きなポイントとなる。
ただ、そうは言っても、組織、あるいはプロジェクトとして短期的に投資コストを回収できなければ、品質評価・バグ混入の予防などの活動は実施しづらい(そのように考える組織が大半だろう)。
本当に、品質にしっかりと取り組めばコストが下げられるのだろうか。
結論から述べると、「品質への投資は組織単位だけでなく、プロジェクト単位でも回収できる。また、一定レベルの品質への投資は必要となるが、その一方で戦略的な“間引き”は可能である」(野中氏)という。
では、どのように品質に取り組んだらよいのか。野中氏によると、第一に「『外部失敗コスト』と呼ばれる顧客への納品後に発見されたバグ・エラーから生じるコストを減らすこと。そして、そのための改善活動をどのように進めていくかが重要である」という。また、これに次いで「納品前に発見されたバグ・エラーから生じる『内部失敗コスト』をいかに抑えるかに注力すること。ここを追求することが大切である」(野中氏)という。
このように聞くと、「では、すぐにこれらの失敗コストを下げるための特効薬はないものか」と考えてしまいがちだが、野中氏は「それよりもまず、例えば、単体テストをする際の“基準”がきちんと整備されているのかなど、品質評価に必要な活動を組織に導入することが大事だ」という。最低限、組織として品質基準を整備し、その上で品質評価などの活動を行うべきである。ここまで組織として投資・活動した上で、初めて「品質の評価コスト(品質活動への投資)に関する“戦略的な間引き”が可能になる」と野中氏はいう。
ただし、「初期段階、例えば、内部失敗コストの高い状態などで、安易に間引き(品質活動への投資を削減)してしまうと、取り返しのつかないところまで組織能力を衰退させる恐れがある」と警鐘を鳴らす。また、バグ混入の予防に対する投資をすることにより、レビューやテストといった品質活動の評価コストを効率良く下げることが可能になるという。
「このようなストーリーで改善を進めていくことで、品質活動における本来のコスト削減につなげられる。品質に取り組めばコストは下がるという話をすると、『そんなのはウソだ』という人もいる。しかし、ここを組織として本気で追求していくこと、まじめに考えることで、品質は上がり、結果コストを下げられるはずだ」(野中氏)。
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