しかし、そうは言っても、SolidWorksが、“完全にノンヒストリなもの”とは違って、“どこまで行っても履歴に縛られる”ということも間違いはありません。
ではこれをプラスと取るか、マイナスと取るか? 例えば、下手な作り方をしてしまうと、“履歴があること”で、その後の修正が非常に面倒になります。……というか、アップデートできないような変更が生じてしまいます。まあ、エラーが起きるということは、そもそも、「そこまでの作り方に何か問題がある」ということで、それを教えてくれているわけです。それ自体は、悪いことではありませんよね。
とはいっても、最終的にそれに対応する責任は、設計した自分自身に降ってきますし、何よりも、「そこで手間と時間を取られるのは嫌だ」という声もあるわけです。
そこで、SolidWorksとしては「フィーチャのフリーズ」という機能で対応することにしたのです。この機能は、「SolidWorks 2012」から導入されました。機能の名前から想像が付くとは思いますが、あくまでも「フリーズ(freeze:凍結)」なので、これまでの履歴の一切合財が消してしまうのではなく、一時的に凍結させてしまうのです。
確かに一度履歴を消してしまえば、その履歴を復活させることは事実上無理でしょう。だからこそ、「履歴の価値」と「使い勝手」を両立させるために、フリーズという手段を選んだわけです。
フリーズすると再計算をしません。このフィーチャに対して変更を掛けようとしても、当然ですが、できません。変更したいときはフリーズを解除すればいいのです。
あるいは、「フィーチャをフリーズさせたまま面を移動する」ということができます。この場合には、「移動したこと」がフィーチャとして残ります。形状的には、これでエラーも出ず、どんどん設計を先に進められます。
消えてしまったものを元に戻すのは難しい。だからこそ、「残しながらも、使いやすさを追求しよう」という考え方なのですね。
ダイダイダイレクト祭の1回目に登場したSolid Edgeのシンクロナス・テクノロジは、いつでもオーダード・フィーチャをシンクロナス・フィーチャに変換することが可能です。この変換は履歴が残らない可逆的な動きなのですが、実はここに考え方の対比を見た気がします。
しかし、「履歴を維持する」ということに対して、それほど重きを置いていないのであれば、何の問題もありません。逆に、重要ということであれば、フリーズの方が望ましいという話です。
このあたり、何だか、それぞれのベンダーの開発者の考え方の対比が見えて、「面白いなぁ」と思ったのです。
そうそう、SolidWorksでは、「ベース部品」という機能を使うこともできます。これ、実は10年以上前から存在している機能なのです。そして、やっぱりどうしても、「履歴が気になるっ!」という場合に、この機能が使えるということです。
考え方としては、「部品の中に部品を作る」感じで、ベース部品は1つの「履歴のないベース形状」が存在しているといったところです。ここで、さらに詳細形状を作り込んでいけます。これは例えば、普段、3次元CADでモデリングをしない生産技術担当が、設計からやってきたデータに対して、「ちょっと変更したいな」といったときに便利でしょう。
さらに製品設計で変更があった場合、それにつられて生産側でも変更が掛かります。非常に大きな変更があった場合には、エラーが起きます。しかし、そのような場合でも、履歴が残っているため、「修正をどのように進めたらよいのか?」ということもトラックしやすいのですね。そんなところにも「履歴がある」ということに価値があるようです。
まあ、ここまでのお話としては、SolidWorksにおいても、ダイレクトライクに形状を操作する、あるいはそれを代替する機能は、一応、随分前から用意があったともいえます。
今回の取材では、私自身、ちゃんと理解していない機能もあって、だいぶ勉強になりました。1つポイントとなるのは、例えば、面を動かしたりすれば、そこに対して履歴が残る。だからこそ、その後の設計に便利な機能が使える、ということです。
で、「設計に便利な機能って何だ?」って話になります。
その代表的なものが、今やSolidWorksユーザーにはおなじみとなっている「SWIFT」でしょう。SWIFTとは「SolidWorks Intelligent Feature Technology」の略で、特に3次元CADのユーザーが試行錯誤しがちな「履歴操作」や「フィーチャの順序検討」「幾何拘束や寸法拘束の設定」などをソフトウェア側に面倒を見させることで、ユーザーの形状作成や編集にまつわる操作の手数そのものを少なくできるというわけです。
つまり考え方としては、「ジオメトリの作り方を変える」のではなくて、「設計にフォーカスするための仕組みをその回りに構築していった」ということです。
例えば、「R1のフィレットを変更したい」なんていうときに、通常、設計者はどうするのかといえば、モデルをグルグル回しながら、変更したいフィレットを次々と選択していくかと思います(一説には、CADユーザーが最も使うのは、回転コマンドとか)。
そこでSWIFTを使えば、類似形状が自動的に選択されるために、このあたりの手数が随分と削減されるというわけなのです。
もっと分かりやすい例で説明してみましょう。「この面に勾配を付けたい」というときに、そこにフィレットが掛かっていたりすると、エラーが出て、前に進めない……なんていう経験をお持ちの方も多いと思います。ここで、自分で履歴を操作すれば、修正できなくもないですが、「フィーチャエキスパート」という機能を使えば、「勾配を付けてからRを入れる」なんてことが、自動的にできます。ユーザーからすれば、素直に、「必要なところに」「必要なときに」「必要な形状を」付けられるというわけですね。
これは、ダイレクトな編集じゃないのですが……、あくまでも“設計者が操作しやすく”目的の形状を作れればよいのですから、設計者的には「これでOK」でしょう。
ソリッドワークス・ジャパンさんによれば、このSWIFTの機能は、「なかなか設計者には評判がよい」とのこと。で、このSWIFTは、設計者がSolidWorksを使って入力してきた履歴、パラメータなどの情報があるからこそ、最大限に活用することを目指すSWIFTのような機能ができるわけなのです。
そうそう、3次元による設計がある程度定着すると、やっぱり欲が出てくるものです。設計において、その欲の典型的なものの1つが「自動設計」。このようなユーザーの欲望を満たすためには、「やっぱり、パラメトリック」ということになるのでしょう。
さて、実はこれ以上、もっともっと書き切れないくらいに面白いお話が聞けたのですが、本シリーズの趣旨からいくと、水野的にはこのあたりでまとめた方が、これまで紹介してきた3つのCADの特徴を見る上では分かりやすいかなと考えました。
ということで、まとめです。
ちなみに、実は、いずれの取材でも、使用しているテクノロジーに関する詳しい話も出てきたのですが、割愛しています。
紹介した順番もたまたまなのですが、今回の取材は、ちょうど、それぞれの特徴が理解しやすい順番になったようです。
第1弾のSolid Edgeは、「モデリング機能として」「ソフトウェアとして」は従来のヒストリベースのパラメトリックの作り方(オーダード・フィーチャ)もサポートしつつも、シンクロナス・テクノロジを前面に出し、履歴に依存しないシンクロナス・フィーチャによるモデリングの効率性を前面に出していました。
第2弾のInventor Fusionでは、ダイレクト操作を簡単に行うためのツールをInventor Fusionという外付けの仕組みにすることで、CADユーザーでも形状を操作できるし、あるいはそれ以外の3次元ジオメトリのユーザーでも形状を操作することができるようにしていました。
そして、今回のSolidWorksは、あくまでもヒストリベースのパラメトリックという3次元CADによる「これまで多くのユーザーが慣れ親しんできた考え方」を変えることなく、むしろ「それらの情報を最大限に生かす」機能を作り込むことで、設計者の業務を最適化することにフォーカスしていました。
実際にCADを日常業務で使う皆さんには、それぞれご意見があると思います。そのご意見は、「自分たちの日常業務が何か」「主たる課題は何なのか」であり、そして「これまでの経験に依存するもの」だと思います。ただし、ツールは日々進化していきます。「普段自分が使うツールとは違うツールのテクノロジーがどのようなものか」ということを知っておくことも、重要なのではないでしょうか。
ということで、また次回お会いしましょう。
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