3D-GAN理事が予想する「3次元業界の2013年」とは。今回は3次元プリンタがメインの「ハードウェア編」。激動の2012年を経て、2013年はどうなっていくか予想する。ベンチャー家電メーカー、いわゆる「プロのMAKERS」たちの動きも業界活性のカギとなりそうだ。
さて2013年最初の「3次元って面白っ!」は何にしよう? それならやはり、「2013年の3次元関連業界の動きを占ってみる」のがいいでしょうか――筆者の独断と偏見に満ちてしまうかもしれませんが……、今回と次回、2回にかけて「3次元業界の2013年」を予想していきます。今回はその「ハードウェア編」ということで、主に3次元プリンタについてお話しします。
2012年、3次元絡みの業界の中で動きが大きかったのが「3次元プリンタ関係」であったことは確かでしょう。主要3次元プリンタベンダー同士の合併が続き、業界大手は瞬く間に3D SystemsとStratasysの2社に集約されてしまいました。
3D Systemsは2012年10月にリバースエンジニアリングツールのベンダー Rapidform社(韓国)を買収。さらに2013年の正月早々(2013年1月3日)から、3次元CGツールのベンダー 米Geomagic社買収の発表といった積極的な動きが続きました。単に違う方式を持つベンダーを買収し、自社のラインアップを拡張することにとどまらず、最終的に「3次元プリンタへとつながるフローを構築する」ことを想定した買収をしていると見受けられます。
Stratasysは、ソフトウェア側の大きな動きはありませんでしたが、2012年12月にObjetと合併したタイミングで社名を「Stratasys」に統一。ただし製品名称の「Objet」は残りました。合併の件に続いて、大型機「Objet1000」も発表し、「ニュースにはこと欠かない」といったところです。
3次元プリンタといえば、「MAKERS」っぽい動きも忘れてはなりません。テレビを含む一般メディアで、3次元プリンタが紹介される機会がぐっと増えてきました。加えて、日本の産業の活性化を期待してなのか、2012年9月ごろから複数のテレビ番組で、“一人家電メーカー”など元気のある小規模家電ベンチャーの皆さんがフィーチャーされました。同年10月末にはクリス・アンダーソン氏の「MAKERS」の日本語版も出版されて、「パーソナル(個人向け)3次元プリンタ」が世の中の注目を集めました。
一般メディアによる3次元プリンタ関連の報道では、3次元プリンタがあたかも「魔法の道具」のように――全ての加工機に取って代わってしまうがごとく紹介されてしまい、さまざまな誤解を含んで情報が伝わってしまった部分が多少あったようです。しかしこのおかげで、3次元データに関連するテクノロジーに、一般の方々の関心が向いたといえます。
このように、2012年中は大きな動きのあった3次元プリンタ業界ですが、2013年は一体どうなっていくのでしょうか。まあ、これについては、まず想像するしかないのですが……。
市場の主力である大手3次元プリンタベンダーについていえば、既に前述の2社しか残っていません。当面はそのままの勢力図で、市場が推移していくのでしょう。
もちろん大手3次元プリンタベンダーが、パーソナル3次元プリンタのベンダーを買収するということは考えられるでしょう。
また、知的財産が絡むと他の動きもあるかもしれません。現在、3D SystemsがForm1に対して訴訟を起こしています。それにより、パーソナル3次元プリンタ業界の動きが止まってしまうとは思えません。また、今まで別世界のようだった、産業用と個人用の3次元プリンタのビジネスの間に、何かつながりが見えてくるかもしれません。現に3D Systemsは、前述のように既に個人向け製品のベンダーを傘下にいれています。
上記を踏まえると、3次元プリンタの業界は今後、どう拡大していくのか。3D SystemsとStratasysが扱う産業用3次元プリンタについては、引き続き、ラインアップは拡大していくでしょう。ある調査会社のデータによれば、両社についてはワールドワイドで継続的な成長が期待できるということでした。ただ、日本国内における数字がはっきりしておらず、断言はできないと思いますが。
日本の製造業においては、「3次元プリンタを開発プロセスの中で積極的に活用していこう」という動きが確かに感じられます。私自身、そのような相談を受けることが増えてきています。「遅い、遅い」といわれてきた3次元データ普及もここのところで、徐々にではありますが着々と進んできている感じなので、3次元プリンタが活躍する場はより一層広がっていくだろうと予想できます。
2012年に注目されたパーソナル3次元プリンタは、今後どうなっていくでしょうか。こと国内においては、いまのようなブームがあるからといって、需要が急増するということは正直考えづらいでしょう。
装置の価格が下がってきたことにより、もともと興味があった層を取り込むことはあるでしょう。しかしそもそも、そのような層の人口はそれほど多いわけではありません。
“3次元プリンタ以前”の話として、現在、国内にいる“DIY的な”(日曜大工的な)ことを趣味とする人たちも、実際は、それほど多くないことも挙げられます。また彼らに必要な工作の全てが3次元プリンタでまかなえるわけではありません。今後もホームセンターのお世話になることの方が多いのでしょう。
本格的に何か物を作ろうとしたとき、現在のパーソナル3次元プリンタでは材料の制限があり、造形物の仕上がりもまだまだ向上の余地があるといったところです。3次元プリンタを、“個人が”“急いで”購入するほど、強い動機はそこにないのではないかと私は考えています。
そうそう、日本では置き場所も問題になるかもしれません。近頃のパーソナル3次元プリンタがいくら「小さくなった」とはいっても、自宅に置くにはスペースがかさばって、欲しいと思ったところで「家族の冷たい視線が……」という方もいらっしゃるかもしれませんね。かく言う私もその1人です(笑)。
あくまで、製造業における「従来の試作(プロトタイピング)」という観点からいえば、材料の選択肢が拡大し、仕上がりも美しくなり、造形物の品質が向上していくことで、そこでのポジションをさらに確立していくことになるでしょう。
現状以上の、3次元プリンタのさらなる普及には、どのような要因があり得るでしょうか。これについて以下の5つの観点が考えられます。
まず「3次元データをもっと普及させること」です。3次元データがなければ、3次元プリンタは“ただの箱”です。もともとモノづくりに携わっていて、CADが使える人なら問題はないのですが……。例えば、廉価な「RepRap」系3次元プリンタを買ったのはよいけれど、自分で3次元データを作ることができない(つまり、結局3次元プリンタが使えない)という悩み話を耳にすることがあります。「3次元データを入手するにはどうしたらいいの?」ということも。
数年前、ある業界誌の3次元プリンタの特集企画に携わりました。その当時、「3次元プリンタのさらなる普及には何が必要ですか?」という質問をベンダー各社にしました。その共通した答えが、「3次元データをもっと世の中に普及すること」ということでした。
「3次元データの普及」は、実は今日のMAKERS関連の報道で注目されていないポイントなのですが、最重要だと私は考えています。特に、パーソナルな3次元プリンタを使う層にとっては、大変重要なことです。しかしそうなると、今度はCADやCGのソフトウェアが必要になり、それを使いこなすスキルに目を向けさせる必要性が出てきます。
CG系ソフトウェアについては、個人でも買えるほどに安価なものが多くありますし、「Metasequoia(通称「メタセコ」)」は、近所の本屋さんで入門書が購入できます。
一方、CAD系ソフトウェアについては、まだ課題がある状況といえます。特にMAKERSのような活動をしたいのであれば、「寸法で形状をきちんと定義できない」とつらいわけで、そうなるとCADが必要になります。
趣味の人はもちろん、プロ志向のMAKERSを目指す人であっても、CADだけに100万円に近い投資をするのは難しいでしょう。10万〜30万円台なら、“それなりの機能の”CADはあるので、真剣にやりたいのであれば、まずはそちらからという選択もできるでしょう。しかしそれ以下の価格で、さらに「趣味で」ということなら、現在は無償CAD「Autodesk 123D Design」(関連記事)、あるいは日本円にして3万5000円程度の「Moi 3D」くらいしかお手軽感のあるCADは見当たりません。
別に無償である必要はないのでしょうが、「個人で購入できるほどの価格で」「比較的手軽に使えて」「納得できる機能がついている」CADが出てくることも、間接的にですが、3次元プリンタの普及や、MAKERS層の活性に必要なことかもしれません。
もちろん「3次元データを作るためのスキル向上」も重要です。そこも避けて通れません。
もう1つは、「キラーコンテンツの出現と普及」です。これは前述の「3次元データがもっと普及すること」にも通じてくるのですが、これはどちらかといえば、「パーソナル3次元プリンタにとって大事なこと」といえそうです。
産業の中であれば、設計現場での3次元データの普及とともに、その開発プロセスの中に3次元プリンタが組み込まれていき、急速とはいかないまでも、継続して3次元プリンタが必ずや広まっていくでしょう。ただし個人利用の場合は、そのような必然性が、どうも見えてこないのです。
紙のプリンタの場合、特に日本では、年賀状がキラーコンテンツだったといわれています。デジタルカメラ(デジカメ)の普及と相まって「年賀状を自宅で作ること」が普通になりました。そして今、多くの家庭でプリンタが普及しています。ただ実際、その用途は「年賀状印刷のためだけ」ということが多いのも現実ではないかと思いますが。
少なくとも、「ユーザーが納得できるコストパフォーマンス」で「一般の個人でも問題なくデータが作れる」という事実がありました。現在、パーソナル3次元プリンタには、そのようなキラーコンテンツが欠けているという議論が業界内であります。
「3次元データの販売」という手段があるのではという声もあるかもしれません。それは確かにそうですが、それにしても「力のあるコンテンツ」が必要です。人気のあるキャラクターが使えれば話は別かもしれませんが、「コンテンツなら何でもよい」というわけではありません。
案外近い将来に、ひょっとしたら「キラーコンテンツが何か」が見えてくるのかもしれませんが、少なくとも現時点では「その見当が付かない」といったところです。
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