デザインR&Dに特化して活動するパナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」は、東京・表参道の拠点「FUTURE LIFE FACTORY OMOTESANDO」で「OUR PRODUCTS展」を開催した。
デザインR&Dに特化して活動するパナソニックのデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」(以下、FLF)は、2025年5月23~30日までの8日間、東京・表参道の拠点「FUTURE LIFE FACTORY OMOTESANDO」において「OUR PRODUCTS展」を開催した。
OUR PRODUCTS展は、進化を続けるモノづくり技術と多様化する社会課題を背景に、メーカーがユーザーや異分野などとコラボレーションして製品を生み出す“共創”の在り方を模索するプロジェクト「OUR PRODUCTS」の成果の一部を、広く一般に公開することを目的に実施された。
展示は、FLFが中心となってこれまで取り組んできた内容を紹介する「作り手との共創」「使い手との共創」と、展示期間中に実施されたワークショップの模様を伝える「みんなとの共創」の3構成で展開され、来場者に対して未来のモノづくりの姿をともに考える機会を提供していた。
OUR PRODUCTSは、「メーカーはモノを考え、作り、売る。ユーザーはそれを選び、買い、使う」という従来のアプローチから離れ、より多様なニーズに応える“作り手”や“使い手”との共創活動を軸とした新しいモノづくりの可能性を探るプロジェクトである。
その必要性について、パナソニック デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY リードデザイナーの中田裕士氏は、「3Dプリンタをはじめとするモノづくり技術の発展、そして、Webを介した人と人とのつながりが加速する今、ユーザー自身がモノづくりに参加できる素地が整いつつある。同時に、生活スタイルも多種多様な世の中になり、それに伴い課題も複雑化/多様化し始めている。そうした状況において、大量生産/大量消費という従来のモデルが必ずしも適用できるとは限らない」と説明する。
「作り手との共創」のコーナーでは、メーカーが販売する製品に対して、異分野の作り手がパーツや外装などをカスタマイズすることで新たな価値を生み出す共創の姿を紹介していた。
FLFは、建築系スタートアップのVUILDと協業し、林業が盛んな岡山県西粟倉村の木工職人や林業関係者を巻き込んだ取り組みに挑戦。トースター用のつまみや取っ手、電動歯ブラシのブラシヘッド、テレビスタンドなどを木材と木工技術、デジタル技術を活用して製作した。実際に、製作した試作品を地元関係者に見てもらい、潜在的な可能性や課題について議論を交わしたという。
「われわれが扱う家電と、伝統的な木工による家具製作とが融合した取り組みだ。家電に多用される樹脂と木材とでは材料特性が大きく異なり、作り方はもちろんのこと、規格や求められる精度も違う。最初は戸惑いもあったが、共創する中で、木工ならではの文化や考え方に触れることができ、同じ作り手として非常に感銘を受けた」(中田氏)
この取り組みは、異分野の作り手を巻き込んだ新たなモノづくりの可能性を探るものであり、木材で製作されたパーツなどがすぐに家電へ適用されるわけではない。ただし、このような活動を通じて「この部分ならカスタマイズ可能」といった“余白”を設けた製品設計の可能性も広がっていく。もちろん、製造物責任法(PL法)の観点から見れば簡単に実現できるものではないが、製品に愛着を持って長く使ってもらうことを目指すメーカーの姿勢として、意義ある挑戦といえる。今回の展示は、ユーザーである来場者の反応を知る機会としても位置付けられていた。
さらに、斜陽産業やその周辺地域、担い手の少ない伝統工芸に新たな活力を与える可能性も秘めている。今回は林業/木工の世界との共創が中心であったが、「今後は他の異分野や伝統工芸、町工場などとのコラボレーションにも取り組んでいきたい」と中田氏は意気込む。
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