「使い手との共創」のコーナーでは、日本ライトハウスおよびICTリハビリテーション研究会(COCRE HUB)の協力の下、視覚障害のある人々に向けて開発された「アタッチメントチップ」の取り組みを紹介していた。アタッチメントチップとは、家電の操作部に貼り付けることで触覚による手掛かりを提供する、3Dプリンタ製の補助具である。
「近年、デザイン性や掃除のしやすさなどを理由に、操作部を含めてフラットな形状を採用する家電が人気を集めている。だが、その一方で、目の不自由な方々にとっては使いづらい側面もある。アタッチメントチップの取り組みは、そうしたユーザーの困りごとに寄り添い、これまで見過ごされてきたような声を拾い上げ、共創の力で課題解決を図ることを目的にスタートした」(中田氏)
アタッチメントチップの開発プロジェクトは、複数回のワークショップやヒアリングなどを通じて進行し、ブラッシュアップを重ねていったという。「当初は家電に表示されるピクトグラム(魚やカップの絵)を立体化する構想があったが、視覚障害のある方々にとってはその形状の意味が理解できない。そのため、できるだけシンプルな図形をモチーフとし、操作メニューを補完するものではなく、あくまでも操作のきっかけ(手掛かり)となるような位置付けにすべきだということが見えてきた」と中田氏は振り返る。
試作段階では、図形の種類だけでなく、凹凸の高さ、形状など、さまざまなパターンを検証し、より多くの人に受け入れられる最適解を導き出そうと試行錯誤を繰り返したという。だが、どんなに突き詰めても人によって好みは異なる。「検討を進める中で、最適なデザインを追求して1つに決めなければならないというのはメーカーの思考であり、それが柔軟な発想を妨げるバイアスであると気が付いた。そもそも製造には3Dプリンタを用いることを想定していたので、1つに決める必要はないのだと思い返した」(中田氏)。
FLFは、アタッチメントチップの一般公開を目指している。その開発の過程では、国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)の「IAUD国際デザイン賞2024 大賞(部門:事業戦略)」を受賞したインクルーシブデザインの手法を取り入れたり、品質の専門家の意見を反映したりなど、メーカー(パナソニックグループ)の強みもフルに活用した。また、3Dプリンタの造形も一般的なPLAの他、食品衛生法適合素材での造形も確認している。
アタッチメントチップの3Dプリンタ用データは、3Dプリンタで自助具を作るためのプラットフォーム「COCRE HUB」を通じて無償公開される予定だ(近日中を予定)。COCRE HUB上で任意にサイズなどを変更できるため、使い手のニーズに適したアタッチメントチップを製造できる。さらに、COCRE HUBには造形を支援してくれる認定コラボレーターを探す機能もあるため、そうした支援者の力を借りて造形することも可能だ。
もともと、アタッチメントチップは視覚障害のある方を主なターゲットに開発したものだが、より多くの使い手(ユーザー)たちに届けたいという。例えば、赤ちゃんを抱っこしながら片手で家電を操作したり、小さなお子さんのお手伝いを促す際の目印として活用したりなど、子育て世代の支援にも役立つ。また、照明を消した真っ暗な寝室で空気清浄機などの家電のスイッチを入れる際にも便利だという。
「アタッチメントチップそのものに、パナソニックのロゴもブランド名も入っていない。ユーザーが自由にダウンロードして使うというものだ。こうした活動はアイデアとして持っていたとしても、メーカーの立場では簡単に実現できるものではない。デザインR&Dという立場でさまざまな外部パートナーとコラボレーションしてきたFLFだからこそ、実現できた取り組みだといえる」(中田氏)
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