3D-GANが作った「妖精眼鏡」は、写真の中にキャラクター(3次元CG)を呼び出せる楽しいモバイルアプリ。しかし、ビジネスにするには課題もある。
「例年に比べて寒い」といわれていた冬もようやく終わりを告げて、嵐とともに春がやってきました。この記事を書いている本日も暖かくて気分もすっかり“春な”水野でございます。縮こまったような緊張が溶けて穏やかな陽気になると何だかボーっとしてきます。そして、その“ボーっとした頭”に、ふと、よぎったことがありました。
3D-GAN(3Dデータを活用する会)という業界団体の事務所に日々居ながら、「そういえば、そこ(3D-GAN)のことはあまり書いていないな〜」ってことでした。もっと正確に言えば、「ここで日々起きている、面白い出来ごとを書いていないな〜」って感じです。
いやいや、3D-GANには実に、いろいろな方がいらっしゃいます。“よもやま話”で終わることもやっぱりいっぱいあるのですが、その一方で「ビジネス」になったことも実はあります。
で、今回はその中の1つを取り上げてみます。3次元データ活用方法の1つということで、読者の皆さんにお役に立てる情報と思います。
というわけで今回のお題は……、3D-GANの「妖精眼鏡」です。
「『妖精眼鏡』とはなんぞや」と思った方も多いでしょうか? 別に怪しいものではなくて、「AR(Augmented Reality:拡張現実)」のモバイルアプリケーション(アプリ)です。AR自体は取り立てて珍しいものではなくなってましたね。以前から有名な「セカイカメラ」だけではなく、他にもさまざまなARアプリが登場しています。
「妖精眼鏡」の場合、マーカーによって任意の「3次元(3D)」コンテンツを表示することができるのです。このアプリはiPhoneやiPadをお使いであれば、App Storeからダウンロードできます。価格は無料です。
で、アプリを立ち上げてみると、このような起動画面が出てきます。
アプリが立ち上がったら、iPhoneに付属するカメラで「マーカー」を写しますと、デモ用の「妖精」が写真の中に現れます(アプリをインストールした時点で、妖精のデータがあらかじめ組み込まれています)。
ちなみに3D-GANでは、こんな感じのサンプルマーカー用カードを用意しています。
ちなみに、マーカーはサンプルカードだけでなく、3D-GAN理事(私や相馬達也さん)など関係者の名刺にも印刷されています。実は私も時々、これを重宝しています(笑)。人とお会いしたとき、ARが話題になったら妖精眼鏡のデモを見ていただく、というふうに使えます。
というわけで早速、私の名刺を使ってやってみましょう。
このキャラクターは秋葉原観光推進協会の「ころねちゃん」。手に持っているのは、はんだごてです(笑)。
もちろん、これは3次元のデータですから、カードを回すとこんな感じになります。
そう、3次元データですから、カードを回転すれば、その向きの通りに見られるというわけです。
ところで勘が良い方は気が付くと思いますが、マーカー配置の仕方によっては、妖精と一緒に記念撮影も可能です。大人なら、妖精を肩に乗せたりするとかわいいですね。マーカーを大きくして床に置けば、大きな妖精と隣に並んだ形で記念撮影もできます。
さらに楽しいのは、これだけではありません。まだ、リリースはされていませんが、現在プロトタイプとして存在しているのがこれ。
動くんですよ!
動画 動く妖精
こちらの試作アプリはまだAndroidのみですが、2012年5月にはiPhone版でもリリースされる予定とのことです。
ところで3D-GANがなぜこのようなアプリケーションを開発したのでしょうか。
時期はいまから1年以上前にさかのぼり、まだ3D-GANの事務所が秋葉原UDXにあった頃の話。3D-GANの中には、ときおり「研究会」やら「分科会」やらできたりしますが、その当時に「AR研究会」なるものができたのです。
そこで、延々と「3D-GANとして、ARに積極的に関わっていくべきか」という話をしたのがきっかけでした。
ポイントは1つ、「ARが3D-GANの趣旨に沿うか」ということです。「3次元データの出口が増える」という点は、まさに3D-GANの趣旨に沿っています。
3D-GANの会員企業さんの中には、3次元CGに関わっている方たちが大勢いらっしゃいますが、その皆さんに共通して、ある潜在的な危機感がありました。
それは、「3次元データの出口が減っていっているかもしれない」ということです。
多くのCGモデラーの皆さんは、下請けという形で仕事をしています。つまり、自分たちの仕事を増やすためには、新作の映画やゲームなどが、どんどん増えていかなければならないわけですね。ところが、「それが増えているのか?」というと、疑問なわけです。
3D-GANとしては、「3次元データの出口」を「ARという形で増やす」ことができれば、業界団体として会員企業さんたちに貢献できるのです。
もちろん、3次元データ技術を活用したARは決して3D-GANが最初ではありません。皆さんご存じのように大手ゲーム機メーカーさんが先行しています。しかし、その出口を、大手企業だけではなくて、私たち業界団体自身も所有するということも大事なのです。
――ってなことで、何社かの会員企業が中心となって、この事業がスタートしたわけでした。
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