パナソニックの「設計AI」が“勘と経験”を超える設計の自動化を実現設計×AIの可能性(1/4 ページ)

パナソニック ホールディングスは、高速化に強みを持つ自社のシミュレーション技術とAIを掛け合わせ、自動で素早くデバイスを設計する独自の「設計AI」の開発に取り組んでいる。その特長や成果について担当者に聞いた。

» 2025年07月08日 07時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 パナソニック ホールディングスは、シミュレーション技術とAI(人工知能)を掛け合わせることで、デバイス設計の自動化を実現する「設計AI」の開発に取り組んでいる。

 同社が目指すのは、設計者の勘や経験に依存せず、設計AIによって革新的な構造を導き出すことだ。現在、開発を進めている設計AIの特長やこれまでの成果、今後の展望などについて、同社 プロダクト解析センター デバイス・空間ソリューション部の太田智浩氏に話を聞いた。

シミュレーションとAIを融合したパナソニック独自の「設計AI」とは?

 同社は、設計の“傾向”を素早くつかむことができる独自のアルゴリズムを開発するなど、シミュレーションの高速化に強みを持つ。設計AIは、こうしたシミュレーション技術に、AIを掛け合わせたものであり、従来の「設計者(人)がモデルを作成して、それをシミュレーションで評価し、勘や経験に基づいて形状を決定する」というサイクルを、AIによって自動化し、素早く回すことを目指している。

シミュレーション技術の強みとAIを掛け合わせて、パナソニック独自の「設計AI」を開発した シミュレーション技術の強みとAIを掛け合わせて、パナソニック独自の「設計AI」を開発した[クリックで拡大] 出所:パナソニック ホールディングス

 AI活用というと、あらかじめ大量のシミュレーションデータを用意し、それをAIに学習させる手法が一般的だが、同社の設計AIでは、シミュレーションとAIを同時並行で動かし、学習しながら最適化を進める、いわゆる“事前学習レス”の方式を採用している。同時に、設計AIがこのプロセスの中で生成したシミュレーションデータベースを基にヒートマップを作成し、計算の高速化や重要な設計ポイントの可視化にも役立てている。

 シミュレーションの高速化という観点では、近年、CAEのサロゲートモデルが注目されている。しかし、サロゲートモデルは、過去に類似の条件が存在すれば高精度な予測が可能な一方、未経験の条件に対しては再学習やモデルの作り直しが必要で、柔軟性に欠けるという課題がある。

 これに対し、同社の設計AIは「事前学習を前提とせず、逐次的にAIが学習を進めていく仕組みのため、あらゆる条件に対して汎用(はんよう)的に使うことができる」(太田氏)という。

 設計AIの取り組みは、今から10年以上前に始まったという。

 きっかけは、太田氏自身が感じた2つの課題である。1つ目は、電動シェーバーに使用されるリニアモーターの性能限界について、製品開発の検討会で問われた際、誰も明確に答えられなかった場面に遭遇したことだ。このとき太田氏は、「ここを明確にできれば大きな価値になるのではないか」と感じたという。

 2つ目は、製品の性能向上を目指す中で、設計パラメーターが増えすぎた結果、人の頭だけでは対応し切れない限界を痛感し、「AIに任せるべきだ。AIで自動設計できれば非常に面白いのではないか」と考えたことである。

 こうした出来事を契機に、以前からさまざまな領域で交流のあった大阪大学と協力し、設計AIにつながる基盤技術の共同開発に乗り出すことになったという。

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