同社は、このような成果が期待できる設計AIの活用によって、モノづくりの在り方そのものを変革しようとしている。
現状の製品開発では、“現在のモノづくりで実現可能なデバイス開発”を前提とする、いわゆるフォアキャスト型のアプローチがとられている。だが、今後は、設計AIが導出した“あるべき姿”を起点に、それを実現するにはどのようなモノづくりや設計が必要かを逆算して考える、バックキャスト型のアプローチへと転換していきたい考えだ。
とはいえ、まだ設計AIの現場活用は限定的なものだという。
設計AIのような新しい技術を普及させていくには、経済的な壁(計算/導入コスト)、技術的な壁(AIが導き出した結果の解釈)、社会的な壁(メリットの認知や理解)の3つのハードルが存在する。
同社では、このうち経済的な壁である計算/導入コストの高さと、技術的な壁である“設計者がAIの導出した構造を解釈できない”という課題に対し、それらを克服するための手法を検討している。
その解決策として同社が提案しているのが、設計AIが構造を導出する過程で生成されるシミュレーションデータベースを活用し、設計上の重要ポイントをヒートマップとして可視化するという方法だ。「これにより、設計空間のうち重要な領域に絞って詳細に設計を行うことで、計算の高速化を図ることができる。また、ヒートマップを通じて、AIが導き出した構造の設計ポイントを理解する手助けにもなると期待されている」と太田氏は説明する。
このアプローチを評価するため、“デバイス設計において重要となる磁気エネルギーが、設計エリア内のある点で最大となるような構造を求める”という課題に取り組み、人間とAIの双方で設計案の導出を試みた。
その結果、「AIが提案したモデルは、人間が提案したモデルと比べて約2倍の磁気エネルギー値を得ることができた。さらに、ヒートマップを活用することで、計算速度は従来比で約7倍に向上することも確認された。加えて、ヒートマップにより重要な設計ポイントを視覚的に把握できることも明らかになった」(太田氏)という。
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