設計AIの製品適用は、最も早いもので7〜8年前にさかのぼる。最初に取り組んだのは、前述のラムダッシュに搭載されるリニアモーターだ。
現在、ラムダッシュを含め、設計AIは5件以上の製品に適用されており、さまざまな製品への適用を進める中で、現行構造に対して出力比で10%以上の向上が確認されたケースも出てきている。中には、従来とは異なる新規構造を設計AIが導き出したことにより、特許出願に至った例もある。
「設計AIでは、出力(性能)だけでなく、コストも目的関数に組み込むことで、いわゆる限界特性を描くことが可能となり、出力とコストのバランスを踏まえた設計も実現できる」(太田氏)
設計AIの技術展開として、今後はリニアモーターの事例に代表される磁場問題に加え、他のさまざまな物理現象とAIを組み合わせることで、マルチフィジックスへの対応や、構造以外の領域(例えば、回路設計など)への応用拡大を目指している。
「設計AIは、構造物の設計に限らず、さまざまな設計課題に応用できる。制約条件やコストなども含めた最適解の導出が可能だ。強度や振動といった従来の物理現象に加え、コスト、冷却性、制御といった要素も設計条件として取り入れることができる」と太田氏は説明する。
事業展開としては、グループ各社の設計現場における設計AIへのニーズの高まりを受け、今後はその活用を一層推進していく方針だ。また、AIサーバの冷却デバイスなどへの応用も視野に入れ、展開の可能性を検討している。
特に設計現場では、近年、設計スキルを持つベテラン技術者の高齢化や退職が進み、「なぜこのような設計にしたのか」が分からないケースが増えている。そのため、既存の設計から構造を変更しようにも良しあしを判断できる人材が不足し、設計改善が進まないという課題も顕在化している。こうした背景も、設計AIへの期待を後押ししている。
このような実情を踏まえ、同社ではグループ各社の設計現場への本格展開に向けた準備を進めており、早ければ2026年からの導入開始を視野に入れている。現場の設計者が設計AIを直接活用できるよう、機能の改良やツールの開発などにも注力しているという。
「さらに先の将来展望としては、対話形式で設計条件を入力すれば、『この構造が良さそうです』といった提案が返ってくるような仕組みを実現したいと考えている。こうしたシステムが整えば、より多くの設計現場で活用されるようになるだろう」(太田氏)
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