最近、新たな3Dプリンタの出力サービスが続々と登場している。3Dプリンタブームである今日のユーザーは一体、個人と法人、どちらが多いのか。また、これからはどうなるのか。
皆さま、お暑うございます。この原稿を書いている今は、雨模様ですが、とにかく暑さが身にしみるこの夏です。そして、その夏の暑さにも負けず劣らず、「熱気冷めやらぬ」といったところなのが、3Dプリンタブームです。個人的にはこの手のブームは、ちょっと話題になったらすぐに終わってしまうものだと考えていました。
一時期ほどテレビで登場しなくはなりましたが、新聞や雑誌、そしてWebメディアではいまだに報道が続いています。3D-GANに取材にくる報道関係者についていえば、ブームに火がついた2012年末〜2013年始めの頃よりも、むしろ今の方が多い気がしています。
専門誌以外の一般メディアにも、「もっとじっくりと、はやりに流されない記事を作っていきたい」とおっしゃている方が多いです。「大流行しなくてよいので、継続的に話題が途切れないようになればよいのかな」と私は考えます。
「話題が途切れない」理由の1つは、「何らかの新しいアクションが起き続けている」ということではないでしょうか。実際、3Dプリンタや3次元CAD・CGに気軽に触れるためのワークショップや、技術者ではない一般の方向けのセミナーなどが、さまざまな団体や施設により継続的に開催されています。3D-GANも、2013年8月17〜18日に「ネコワーキング」(2匹の看板ネコがいるコワーキングスペース)で親子セミナーを開催予定です。他にも、子ども向けのセミナーを幾つか計画しています。
そうそう、家電量販店のヤマダ電機も3Dプリンタを扱い出すなど、私たち業界人的には「えっ?」と思ってしまうような話題も途切れません。
もう1つ、最近よく目にするようになったのが、業務用の3Dプリンタを活用した出力サービスのビジネスです。
拙著にも書かせていただきましたが、積層造形機や3Dプリンタを活用した出力サービスのビジネスは、昨日、今日で始まったものではありません。既に長年、そのようなビジネスを提供してきた企業は存在しました。
最近は、従来とは違う企業、つまり「3次元データ」や「3Dプリンタ」、あるいは「モノづくり」といったキーワードでは連想されなかった企業によるサービスが動き出しています。例えば、ソニー・ミュージックコミュニケーションズが手掛ける3Dプリント・フィギュアや、ヤマト運輸の3Dプリントフィギュアサービスなどです。「DMM.com」も話題になっています。
出力サービスは、私自身も以前から使っていましたし、ここのところは「Shapeways」もよく利用しています。なんと言っても、自分が持っていない装置や、さまざまな出力方式が間接的に利用でき、出力物を得られるということには、とてもメリットがあると考えています。
実際、「3Dプリンタによる出力サービス事業の成長」というのは、一体、どんな感じなのでしょうか?
2007年2月、当時はリアルファクトリーの社長であった現3D-GAN理事長の相馬達也氏は、従来の試作業とは異なる3Dプリンタによる出力サービスをスタートしました。当時、相馬氏以外に、そのような出力サービスを手掛けるビジネスは、Web上にある情報を調べてみた限りでは、見当たらないようでした(この件、相馬氏は「異論は認める」とのこと)。しかし現在は、多くの出力サービスのビジネスが立ち上がっていること、そして、どのビジネスも売り上げを伸ばしていることを考えていると、この先もまだ伸びる可能性があるビジネスであると考えられます。数年前まではこのような市場が存在しなかったことを考えると、“純増のマーケット”であるといえそうです。
また、3Dプリンティングのプロセス自体が、他の従来加工法と比較すれば、製造業的な知識やスキルが少なくてもビジネスとして成立し得る側面も、その成長に影響するでしょう。
実際に、3Dプリンタの出力サービスに進出している企業は、どのように考え、どのようにビジネスを進めているのか、私は興味がありました。そこで3D-GANとも関わりのある東京リスマチックが運営する「立体造形工房 神田」にお話を聞きにいってきました。
東京リスマチックが出力サービスを始めたのは2012年4月。「メイカーズムーブメント」や「3Dプリンタブーム」が始まる少し前の話です。当初は、3D Systems社の「ProJet HD3000」1台で始めた出力サービスでした。その後、順調に拡大を続け、現在では「ProJet HD3500」が3台、「ZPrinter650」1台もラインアップに加わっています。このことからも、確かに急成長しているといえそうですね。
今回、お話を聞いた東京リスマチックの兼松将堂氏は、出力サービスのビジネスの立ち上げから今まで、一貫してビジネスに関わり続けてきています。3Dプリンタを活用した出力事業については、確かに「従来加工法の工作機械を使用するよりも参入しやすい」という印象があるかもしれません。しかし兼松氏は、単に「機械と場所がある」というだけなら、簡単に手を出さない方がよいだろうというご意見でした。
兼松氏自身は、もともと製造業の出身です。東京リスマチック入社後には、紙製の什器(じゅうき)を製作するビジネスにも取り組み、CADも使っていました。現在は、3次元ビジュアライゼーションを得意とするキャドセンター社などが同社の子会社として加わり、会社としても組織的な知識やスキルも手に入れています。
さらに兼松氏によれば、今から4〜5年前(2008〜2009年頃)から準備を整えつつ、参入時期をうかがっていたそうです。出力サービス自体は、機械と場所があれば始められるのは確かです。ただ、同社がそのビジネスを着々と伸ばした背景には、そんな用意周到さがあったということなのでしょう。
兼松氏によれば、やはり個人からの依頼よりも、製造業系の企業(法人)からの試作依頼の方がかなり多いようです。それを踏まえると、個人と製造業系の企業、それぞれが「3Dプリンタに対して求めることは、何か」を知っておく必要があります。
3Dプリンタを使用する上では、当然、3次元データは欠かせません。3次元データの扱いや作成はもちろん、モノづくりそのものの知識やスキルもあった方がよいでしょう。しかし個人では、そのような知識やスキルはきちんと持ち合わせていないのが一般的です。実際、3D-GANにおいても、3Dプリンタの出力についての質問があれば、3次元データに関連することが多くなります。
東京リスマチックがそうであるように、出力を目的とした3次元データ関連のサービスにおけるユーザー分布は、少なくとも現時点では、個人ではなく法人が圧倒的に多いといえます。
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