話題の3Dプリンタも、3次元データがないと始まらない! そもそも、デザインやアイデアなどを守る法律はよく聞くけれど、3次元データそのものって一体、どんな法律で守ればいいの?
先週は設計・製造ソリューション展(DMS)でした。1年がたつのは何と早いのでしょうか。皆さんの“DMS歴”での1年はいかがでございましたでしょうか?
昨年2012年の6月はまだ、クリス・アンダーソン氏の「Makers」の日本語版は出版されておらず、Makersブームも始まっていませんでした。この渦中にいる1人であるビーサイズの八木啓太さんは、既にMONOistで紹介されていましたね。私がメンバーになっている「Independent Contractors協会(IC協会)」の定例イベントで八木さんが講演してくださったのもこの頃だったと思います。
去年の今頃は、「3Dプリンタ狂騒曲前夜」だったといえます。当時、私がMONOistに寄せたDMSのレポートでは、「3Dプリンタが目玉」と書きました。その勢いは、今もまだ続いていますね。数カ月のブームで終わらずに、いまだに3Dプリンタはメディアが提供する話題の中心にいます。
3Dプリンタについては、「極楽とんぼ的期待」から、「ここまで言うか! 超悲観論」までさまざまですが、個人的には、何にせよ、モノづくりに世の中の目が向いたことはよかったと思っていますし、ありがたく思っています。
私も含めてこれまでモノづくりに携わってきた人たちの多くも一部の報道のされ方に違和感を覚えているとは思いますが、「伝えたくてもなかなか話を聞いてもらえない」状況から、「どうやって伝えたら話がきちんと伝わるかを考えるべき」状況になったのですから、かなりの進歩ではないでしょうか。
……この話、このまま続けたいのですが、次回以降でまた取り上げます。
ということで、今回は別の話題、と言っても、3Dプリンタとは決して無関係ではありません。
「3Dプリンタは、3次元データがなければただの箱」ということは私自身、いろいろなところで話していますし、読者の皆さんも同じではないでしょうか。つまり「3Dプリンタが偉い」わけではなくて、「3次元データが偉い」わけです。さらにいえば、人の頭の中にあるものがもっと偉い。
デザイナーの素晴らしいアイデアも、設計の情報も、どこかで3次元データに化けています。3次元データとは、中間生成物であるにせよ、非常に重要な存在であると言えます。
モノづくりをする中で、社外とのコラボレーションは避けられません。そこでも、例えば「3次元ビュワー用のデータは社外に出せるけれど、そのソースとなる3次元CADのデータは社外に出せない」など、3次元データのルールがあると思います。自分を守るために、いろいろな法律、権利も駆使します。
3次元データを使ってモノづくりをしている私たちは、一体どのような法律を意識すればよいのでしょうか。
それをきちんと認識することは、非常に重要だと私は考えます。さらに、著作権とかナントカ権とかいえば、「自分の権利を他者の侵害から守るため訴える」とかという攻撃的視点で捉えがちです。また「脇が甘いせいで、自分が攻撃されること」も忘れがちです。
また、やみくもに権利を申請しても、案件の分だけコストや手間が掛かります。自分が一体何を守りたいのかを認識して戦略的に取り組む必要があります。場合によっては併せて海外の権利侵害対策を考える必要もあります。
そもそも、デザインやアイデアなどを守る法律はあるけれど、3次元データって一体、どんな法律で守られるのかと考えると、いろいろと疑問が出てくるかと思います。そこで今回は、3次元データと関係ありそうな法的権利を一通り紹介してみます。
私の周りにも、業務経験を通じて権利関係に詳しい方たちが結構いらっしゃいますが、法律のプロではありません。
そういうわけで今回は、中原弁理士事務所の中原亨弁理士にお話をお聞きしました。2013年4月に開催した「春の3D-GANセミナー」で中原弁理士にお話していただいた内容をベースに、新たに尋ねたお話も付け加えつつ説明します。
また、この記事は、あくまで私が理解したことをベースにした「即席講座」、つまり参考情報として読んでいただければと思います。もし本記事の内容に相違があれば、私の理解不足によるものです。具体的なビジネス案件がある場合には、弁理士の方にきちんと相談するのをお勧めします。
最初にお話しするのが、「3次元データを直接的に保護する法律はない」ということです。そもそも3次元データは“製造業的”にいえば、「最終製品に対する計画図」であり、それが最終成果物として保護されることはありません。
じゃあ、どうすればよいのか?
そもそも権利といってもその範囲は広大です。例えば「製品の機能」や「製造法」ということになれば、それは「特許権」になりますし、「意匠(デザイン)」であれば「意匠権」になります。場合によっては、「著作権」が効いてくることもあります。つまり、それぞれの分野に対して、適切な権利を適用することが必要なのです。
ちなみにモノづくりにかかわる「権利」といえば、大きな意味でいえば、「知的財産権」ということになります。その知的財産権の中には、さまざまな権利があります。
「知的財産権」について、中原弁理士に教えていただいたものを図解すると下記の通りです。
今回お話するのは、その中でも「赤い線で囲まれている権利」を中心とします。
まず意匠権の話です。デザインをやられている方は、この権利についてかなり敏感なのではないでしょうか。
ちなみに意匠とは「物品の形状模様もしくは色彩、またはそれらの結合であって視覚を通じて美観を生じさせるもの」という定義だそうです。ちなみに、方法や著作物はそこに含みません。方法は特許になるでしょうし、著作物であれば著作権になるでしょう。
まず意匠権とは、後述する特許権と同様に、非常に強い権利を持っているということがいえます。それは、この権利に“絶対的”独占排他権があるということです。しかも、意匠権の対象は、同一の意匠はもとより、類似した意匠にまで及びます。
また特許権と同様に、意匠権にも審査があります。このような審査のある権利は非常に強力なのです。さらに独占排他権があるので、その意匠については、所有者に絶対的な権利があって、相手からの反撃(!?)にも対処できるようになります。
もちろん、良いことばかりではありません。まず、当たり前ですが出願にあたり、それなりに費用が掛かります。1件当たり1万6000円ですが、数が増えれば多額になってきます。
というのも、意匠権は物品を特定する必要があるため、物品数の分だけ増えることになります。例えば、あなたが本物の自動車の意匠権を持っていても、それはその自動車の「ミニカー」の意匠権を持っていることにはならないということです。
ちなみに、それもあり3次元CADデータに意匠権は適用できないようです。フルスケールの本物のCADデータから、スケールダウンをした模型のデータは簡単に作ることができてしまうからです。つまり意匠権の適用範囲は、物品の特定をするのに問題がない範囲によるというのが私の理解したところです。
出願後、審査が通って登録されたとしても、権利の維持にお金が掛かります。権利の存続期間は設定登録から20年ですが、毎年の年金がないと維持出来ません。
先も説明したように、意匠権は審査があるが故に強力なのですが、そのかわり、審査時間もかかります(半年〜1年ぐらい)。例えば、商品寿命が半年程度しかない場合は、権利が認められるころには、商品の寿命も終わっている、ということもあり得ます。
とはいえ、やはり権利としては強力なものです。それが自分にとって重要なものであれば、意匠権は確保しておくのがよさそうですね。それに、もしライセンスビジネスを考えている場合も、権利を押さえておくことが必要です。
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