3D出力サービスが活用されるようになると、心配なのがSTLのセキュリティ。その問題に対処するツールが登場した。セキュリティを保護するだけでなく、品質のよいデータに修正してくれる。
2015年3月24日付の「Wall Street Journal」の日本語版に「3Dプリンター失速、多種少量の受託生産に活路」という記事が出ました。しかし恐らくどの関係者も、別に失速もしていなければ、調子も悪くなっていなくて、一時の熱狂が冷めた程度、むしろ本来使う人たちが使うようになったと感じているのではないでしょうか。
実際、出力サービスをフルに活用した結果、自社で導入した方がよいと感じて自社で購入したなどの話も聞こえてきます。確実に稼働している3Dプリンタの数は増え、流通しているSTLデータの量は増えています。私自身、3Dプリンタによる出力目的で3Dデータを扱う機会や出力サービスの活用頻度が以前とは比較にならないほど増えました。
そして、私同様に3Dプリンタによる出力サービスを活用している人たちもかなり増えているのではないかと考えています。そして、この時に発生する問題が2つほどあります。1つが「STLの品質の問題」、もう1つが「データセキュリティに対する問題」です。セキュリティに関しては、このコラムの第39回の後半に、3D-GAN内でも話をしているということを少し書かせていただきましたが、今回はその続編と考えてくださって結構です。
あれから、「STLの品質の問題」「データセキュリティに対する問題」に対応するためのソフトがリリースされました。もちろん、これで全ての問題が解決されるわけではないと思いますが、出力のサービサー、ユーザーともにメリットのあるソリューションになると思います。
あらためて背景からお話しましょう。まず、この話の大前提として「出力サービスはもっと一般化し、そのニーズは今後も増えると見込んでいる」という前提があります。さて、それ自体は素晴らしいことですが、一方でサービサー、ユーザー側に双方にとっての問題も残っています。
サービサー側としては、差別化が難しいという問題があります。つまるところ汎用機器を使用してサービスを提供する以上、一番ベースの部分が同じで他の加工方法ほどそのやり方で差が出にくいので、何か他の部分で差別化をしなくてはならない、ということです。もう1つはセキュリティの確保によって顧客にも安心感を持ってもらう必要もありますね。個人はもとより法人需要もかなりあるわけですから。
ユーザー側にも問題があります。1つはデータ品質の問題です。ソリッドモデラーなどで作成したデータは比較的エラーが起こりにくいですが皆無というわけではありません。特に無理して作ったわけでもない形なのに、変換時にエラーが起きていることもあるので、直す必要があります。
そのようなエラーのあるデータを出力サービスに入稿すれば、原則として差し戻されてしまいます。でも、使う側としては、ある意味本質ではないところのエラーで差し戻されるって嫌ですよね。もっとも、その一方で出力サービサー側はきれいでないデータは受け取りたくないわけです。差し戻すのも手間と言えば手間ですし、どちらにとってもありがたくない話です。
まあ、そのためにSTL修正ソフトがあるわけですが、従来のものには問題がないわけではありません。フリーのものの場合、確認のみで修正ができない、あるいは修正ができるものでも英語版のみとか、簡単とはいえ使い方を覚えなければいけないわけです。しかし、よく考えればそれも変な話です。言ってみれば、WordファイルをPDFファイルに変換した時にエラーが起きたので別のソフトでエラーの種類を見ながら直していかないといけないようなものですから。
とはいえ、現時点でSTL変換時にエラーが起きることは避けられない事実なので、できれば簡単に修正をかけられるものを出力サービスのユーザーがフリーで使用できれば、出力サービスのユーザー、サービサーともにも得になるわけです。
そして、もう1つが前述のセキュリティの問題です。出力サービスを使用する場合に、STLデータがインターネットを経由するのはごく当たり前です。出力サービスでなくて企業間でのデータをやりとりする際に完全にクローズなネットワーク(VPNも含み)のみでデータをやりとりしているということは案外少ないのではないでしょうか。つまり製品のデータが裸で公衆の面前を飛び交っているようなものです。
STLファイルは確かに、CADの生データではないですが、それでもかなり製品情報を含んだものであることは確かで、このデータから切削加工や金型製作も可能でしょう。もともとが寸法で定義されている形状であれば、あらためてCADで扱うことができるようにすることなど造作もない話ではないでしょうか。実は「非常に危ないこと」を特に意識もせずにやっているということが言えそうです。
対策はいろいろとあると思いますが、1つは暗号化するというものです。しかし、言うことは簡単ですが、送り手と受け手がその仕組みに乗っかっている必要がありますし、さらに言えば、ここでさらに1つソフトを追加して、それを使わなければならないのもつらいところです。……であれば、サービサーがこのソフトをユーザーに無料で配布すれば便利ですね。
というところで、3Dプリンターシェアリング&マッチングサイト「Crew3D」を展開するビークルからリリースされたのが「3Dプリンタ用データのチェック・自動修正+暗号化システム」です(図1)(関連記事:3Dプリンタ出力サービスを利用する際に、3Dデータを暗号化、自動修正)。
一見したところ非常に簡単なUIに思えますし、実際そうです。画面左のメニューで開き、自動修正ボタンで修正をしてエキスポートするだけです。画面左下にある「新着記事」では、サービサーが案内などをユーザーに対して告知することが可能です。
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