SolidWorksにもダイレクト編集の機能は付いているけれど、「あくまでもヒストリベースのパラメトリック」という軸はぶらさない。
いや〜、1年のうちで、とても過ごしやすい時期はあっという間に過ぎて、もう6月。そして梅雨へと進んできています。水野は寒い時期は苦手なのですが、日本の“スーパー蒸し暑い”夏も何とかしてほしいと思ったりもします。不思議なもので、その時期になると、ほんの半年前の、「朝起きた時の寒くてブルブルと震えていた環境」が、もう思い出せないのです。毎年繰り返すサイクルなのにどうしてなのでしょう。
日本の6月と言えば、「設計・製造ソリューション展(DMS)」ですね。まあ、いろいろな人がいろいろな意見を言うイベントではありますが、何だかんだと話題になる以上、「皆が気になる」イベントであることに間違いはありません。
さらに、これまた何だかんだと、イロイロな会社から、イロイロな人が集まってくるので、間違いなく情報交換の場になっているのも確かですね。イロイロな変化はありつつも、今もなお、3次元CADが一番まとまって見られる場所です。水野もDMSでCADをはじめとする3次元技術をイロイロと見て回りました。このコラムでも、その件を紹介する予定です。
さて、今回で3回目となる、3次元CADのダイレクト編集をレビューしまくる企画「ダイダイダイレクト祭」。「Solid Edge」「Autodesk Inventor Fusion」ときたら大体、想像が付くとは思います。やっぱり、米ダッソー・システムズ・ソリッドワークスの「SolidWorks」ですね。
んー……、でもSolidWorksって、確かにダイレクトライクな操作はできますけど、「ダイレクト編集がどうした」って公の場などで、あまり声高に言っていなかったような気がしていました。「果たしてこの企画は成り立つのか!?」――実はそんな不安を抱きつつも、一方で何となく期待も抱きつつ、結果としては大変面白いお話が聞けました。SolidWorksのポジショニングや、大事にしてきたことも、今回明確になりました。
結論からいえば、「“ヒストリベースのパラメトリック”という従来の立場を大事にしている」ということが伝わってきた、ということです。――おっと、こう書くと、その後の記事の展開が読めそうですね。まあ、でも続けましょう。
設計者にとって「CAD」って何かというと、言うまでもなく「設計をやっていくための道具」なわけですね。それも、数ある道具の中の1つに過ぎません。私自身もかつてCADベンダーにいた身で、始終CADに関わってきました。実際のCADユーザーの中には、モデリングにかなりの時間を使っている方もいるでしょう。しかし、いずれにしてもやはり「CADが全てではない」のです。ただ、重要な道具である以上、そこにベストなものを使いたいわけですね。
その要求に応えるために、CADの機能がバージョンアップしてきました。その答えが、それぞれのCADのメイン機能といえるでしょう。
そして、形状操作などの使い勝手のところに視点を置き、「新たな操作系の開発をしたのか」、あるいは「それとは別のところに視点を置いたのか」というところで、まず違いが出てくるわけですね。
では、その点から考えて、SolidWorksはどうなのでしょうか。前述しましたが、SolidWorksでは「ヒストリ」「パラトリック」ということを大事にしています。なぜかといえば、「設計工程全体を考えたときに、それが非常に大事な要素になってくるから」という考え方がベースにあるからでしょう。
じゃあ、そのままにするのか? もちろん、そういうことにはなりません。この後で説明しますが、そのあたりをしっかりとカバーする機能群を「設計」という観点から、きちんとカバーしているのです。
今回、ソリッドワークス・ジャパンで話をお聞きして、あらためて認識できたことが1つ。1995年、Windows初の3次元CADとして、SolidWorksが登場して以来、そのベースコンセプトは一貫しているということでした。
SolidWorksのユーザーであればおなじみのスタートアップの画面ですが、「単品なのか」「組み合わせるのか」それとも「図面を描くのか」――メカ設計者にとっての作業を考えた上での必要最小限の選択肢は、迷いようがありません。実は、ユーザーにとってはおなじみのスタート画面は、1995年からずっと変化していないのだそうです。そういった「ぶれない方針」はユーザーとしては安心感が持てますよね。
そして、「ユーザーたちの要求について、どう考えるか」なんですが。今回のトピックである「ダイレクト編集」も、結局のところ、「設計者が深く悩むことなく、手軽にジオメトリを操作したい」というニーズをいかにかなえるかを目的としているといえます。
そして、「なぜそのようなニーズが出てくるのか」。もし設計の目的を満たすための“手段”であるジオメトリの編集に手間が掛かり過ぎるなら、それは本来の「設計業務」の時間を圧迫してしまうわけですね。
従来より最も多用されてきたヒストリベースのパラメトリックモデリングは、「良いもの」ではあるのですが、モデルの作り方次第で、変更が面倒になってしまいます。「設計を検討しているのか」、それとも「とにかく形状を修正するのが仕事なのか」が、どうもよく分からなくなってしまう……、というわけです。まあ、紙に鉛筆で図を描いたなら、もし間違えれば、消しゴムで消して直せばよいわけですからね。
本来、形状の修正は、あくまで“手段”であって、“目的”ではないので、当然、その手数が少なくなればよいということです。
今回のダイダイダイレクト祭は、実は、そのさまざまな解決手段を紹介するということが裏の目的だったのです! 「えっ、本当に、そんな深慮遠謀をもって企画していたの?」って? それは、ご想像にお任せしましょう……(笑)。
おっと、脱線しそうなので、前に進みましょう。えーと、ダイレクト的な操作を前面に出しているCADは、もちろん「それが、設計者からのニーズに対応するのに最適!」と考えて開発を進めているわけですが、もちろん、その手段は1つではなくて、別のアプローチもある。ということで、今回のSolidWorksの話につながっていきます。
SolidWorksだって、ダイレクトな操作はできるのです。その特徴的なものは「インスタント3D」だといえそうです。3次元の形状作成や編集で、「つまんで引っ張ったり、押し込んだり」と直接的な操作をしながらも、あくまでもその変更についての履歴を持っています。
最近では、3次元CGを経験した人が、3次元CADを使い始めるという例があります。CG経験者にとっては、このようなダイレクトな操作が入り口として分かりやすいと思います。一方で、CGのような操作は、主として「寸法での形状操作が難しい」(というか、そもそも無理な場合も)、「有機的な形状だからこそのやりやすさ」があります。
もう一方で、私たちがCADで扱うような形状は、まずは「寸法ありき」ですね。そして、あとで変更する場合も、直感的に押したり引いたりするのではなくて、「○○を何mm動かす」というように、寸法で定義しながら形状編集するわけです。
SolidWorksのインスタント3Dは、そのようなニーズのバランスをうまく取ったものといえそうです。図1に示すように、ある面を修正し、その位置をダイレクトに動かしながらも、スケール(定規)を使って寸法値を把握することが可能です。
つまり、「しっかりと寸法をトラックしていること」がイメージとしてもつかめるのです。もちろん、操作自体はダイレクトですが、あくまでもヒストリベースのパラメトリックなのです。しっかりと履歴は残るため、従来のパラメトリックな操作感は消えないわけです。
このような変更は、図2のようにアセンブリ環境内で行うことも可能です。こちらは、図1のものよりも複雑な変更になりますが、操作としては図2の左のような形で形状を変更すれば、図2右のように配置を変えることができます。
ちなみに、モデルをインポートした場合は、どうしたらよいのでしょうか。異なるCADの場合、「履歴まで渡らないのは仕方がない」というのが常識になっています。特にパラメトリックなCADの場合は、「履歴を活用した変更」というメリットが生きなくなってしまうことになります。もちろん、どのCADベンダーもそれに対して無策でいるわけではありません。
例えば、SolidWorksの場合では、「FeatureWorks」という機能を用いると便利です。私自身、その便利さを感じています。もちろん、ソフトウェアで自動的にフィーチャを付けているので、「あれ?」と思わないでもないケースもありますが……、中間ファイルを使ってインポートしたファイルを使った面の修正作業については、FeatureWorksをうまく使うことで、その作業をスムーズに進められそうです。
……とまあ、このような感じで、「履歴があったとしても、操作はダイレクトにできる」ということです。つまり、ダイレクト編集は、上で紹介した程度の操作感で十分ということであれば、その機能は既にSolidWorksに備わっているわけですね。
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