日本の強みを起点に、近年の品質問題に必要なデジタル/AI活用の可能性を考える製造品質セミナー 2025 夏 レポート

MONOist主催のライブ配信セミナー「『製造品質セミナー 2025 夏』−デジタル技術で革新する製造品質管理−」の中から、ロジカル・エンジニアリング 代表の小田淳氏による基調講演「『品質が良いって、何が良い?』から分かる、最近のAI品質ソリューション」の模様をダイジェストでお届けする。

» 2025年08月13日 06時00分 公開
[MONOist]

 MONOistは、2025年7月22日に“製造品質を現場からデジタルで変えるヒント”などを紹介するライブ配信セミナー「『製造品質セミナー 2025 夏』−デジタル技術で革新する製造品質管理−」を開催した。その中から、「『品質が良いって、何が良い?』から分かる、最近のAI品質ソリューション」をテーマにした、ロジカル・エンジニアリング 代表の小田淳氏による基調講演の一部を紹介する。

品質が良いとは? 「製品化5つの壁」について

ロジカル・エンジニアリング 代表の小田淳氏 ロジカル・エンジニアリング 代表の小田淳氏 出所:ロジカル・エンジニアリング

 講演で小田氏はまず、「『品質が良い』とは何が良いことを指しているのか?」について説明した。外国人は、日本車が長距離を走っても壊れない点などを高く評価している。また、海外でも販売されている同じ家電製品であっても、日本国内で生産されたものをわざわざ日本まで来て買い求めるケースが見られる。

 これらは、いずれも日本製品の品質の高さを示す例であるが、小田氏は「品質とは一般的に、安全性、信頼性、製造性の3つを指す」と説明する。加えて、コストやサービス性(修理のしやすさ)も広義には含まれるとし、これらを「製品化5つの壁」と呼ぶ。この5つの壁をクリアできるように設計することが、製品設計における重要なポイントであるという。

 このうち、安全性とは「ユーザーが危険にさらされないこと」を指し、設計者はこれに対して設計で対処する。例えば、バッテリーが発火しないように設計することがその一例である。安全性は人体に影響を及ぼす可能性があるため、各国ではPSE法(電気用品安全法)をはじめとする法令が一部整備されており、重視されている。また、PL法(製造物責任法)なども制定されており、ユーザーを保護するための制度が手厚く整っている。

 信頼性とは、製品が壊れにくいことであり、設計者が設計によってこれに対応する。信頼性に関しても一部に規格が存在し、ISO(国際標準化機構)やJIS(日本産業規格)などが該当する。ただし、これらは法令ではなく、各メーカーが独自に基準を設けて対応している。そのため、基準の水準が低いメーカーの製品は、壊れやすいとの評判が立つこともある。なお、こうした基準の内容は企業秘密とされており、一般には把握が困難である。

 スタートアップ企業が良質な製品を設計するのが難しいのは、このように必要な試験内容が公開されておらず、何をどのように試験すべきか判断できないためである。一方で、日本メーカーが優れているのは、まさにこの部分にあり、海外製品と比較して日本製品の品質が高いとされる背景には、厳格かつ多様な試験が実施されている(という事実がある)からだ。

 製造性とは、正しく組み立てやすいことである。設計によって対応するのが基本であるが、それが難しい場合や、設計による対応に多くの費用がかかる場合には、製造(組み立て方)によって対処することになる。具体的には、作業標準書による作業指示の他、治具の活用やインライン検査など、製造段階で対応する手法が用いられる。

 こうした製造段階での対応について、「日本人は非常に得意である」と小田氏は述べている。その理由として、真面目な国民性に加え、長期にわたり同一企業に勤務することによって作業者の入れ替わりが少ない点、さらには社員教育の徹底が挙げられる。そして、小田氏は「日本の強みは、特に設計による信頼性と製造段階での製造性にある」と強調する。

 信頼性と製造性が優れていることにより、海外の人々は日本製品の品質が高いと判断し、購買しているのだ。すなわち、設計によって信頼性を確保し(壊れないように設計されている)、製造によって製造性を確保している(正確な部品を用い、正確に組み立てている)という点が、日本製品が広く支持される理由である。

ライブ配信セミナー「製造品質セミナー 2025 夏」の基調講演に登壇した小田氏 ライブ配信セミナー「製造品質セミナー 2025 夏」の基調講演に登壇した小田氏[クリックで拡大] 出所:ロジカル・エンジニアリング

デジタル技術を活用した品質管理の必要性

 続いて、近年増加している製品不良の事例が紹介された。社会の変化に伴い、美容機器、雑貨、低価格帯のオーディオ製品などを中国にODM(設計製造委託)するケースが増えている。また、日本国内の製造工場(組み立て)では、外国人労働者の従事が増加している。

 中国におけるODMとは、中国メーカーが製造した製品の一部を変更(色や印刷の追加、外装部品の形状変更、機能の追加)した上で、日本ブランドとして販売する形態を指す。しかし、このような製品には不良品が多いという報告が寄せられている。

 その主な原因としては、依頼側である日本のメーカーに設計者が不在であるケースが多く、結果として品質試験に関する知識が欠如しており、何をどのように試験すべきかを明確に示すことができない点が挙げられる。また、中国のODM企業側にも品質試験に関するノウハウが不足しているとみられ、必要な試験が十分に実施されていない状況にある。これら2つの要因が、安全性や信頼性の低下を招いている。

 加えて、近年は改善の兆しも見られるが、製造性に対する意識が依然として低いことも課題である。その背景には、国民性の違いや作業者の入れ替わりが多いことなどがある。さらに、日本側が距離的な要因などから現地監査を実施せず、現場に任せきりにしている点も問題とされている。

 こうした課題に対応し、安全性および信頼性を向上させるための有効な手段として、小田氏は「日本側から具体的な要望を出すには、専門家に相談するしかないのが現状である」と述べている。一方、製造性の確保については、「手間が掛かっても日本から現地へ監査に赴くこと」に加え、今回の講演の主題でもある「デジタル技術を活用した品質管理の導入」が重要であると指摘している。

 さらに、日本において増加している外国人労働者による製造性の低下という課題に対処する手段としても、デジタル機器(技術)の活用が有効であると小田氏は強調した。実際に、カメラによる画像を活用し、常時監視、定期監視、インライン検査(ロボットによる自動実施)を行うことで、一定の成果が挙がっている。

 常時監視では、人間の関節の動きを継続的に確認し、作業内容が従来の動作と異なる場合にはアラームで警告する仕組みが採用されている。エラーが発生した際には、アラームを鳴らして即座に対処することが最も有効であるとされている。

 定期監視では、工場内に設置された各種装置の設定値が適正に保たれているかどうか、また、完成品に正確な内容のラベルが貼付されているかといった点も確認対象となる。

 インライン検査については、ロボットによって実施することで、より迅速かつ正確な管理が可能となる。監視には映像を用いるのが最適であり、小田氏は「映像を記録しておくことで、別の問題の発見につながる場合もある」と述べ、過去に映像の活用によってエラー原因を特定し、解決に至った経験を紹介。こうした映像監視システムは、高額な投資を必要とせず、かつ多くの成果を得られるというメリットがあるという。

カメラによる常時監視、定期監視、インライン検査について説明する小田氏 カメラによる常時監視、定期監視、インライン検査について説明する小田氏[クリックで拡大] 出所:ロジカル・エンジニアリング

AIを活用した検査装置の可能性

 この他、小田氏はキズゲージに代わる塗装品質向けのAI(人工知能)検査装置についても言及した。従来、塗装に付着したほこりなどによるゴミやブツは、キズゲージを用いて人間の目で判断していた。しかし、目視による判断は曖昧であり、測定者や測定のタイミングによって数値にバラツキが生じることがあった。さらに、塗装メーカーと受け入れ企業とで判断基準が異なるケースも存在していた。

 こうした問題に対処するため、ライン上に設置する大型のAI検査装置は既に存在している。しかし、塗装を実施する企業と受け入れ側企業が同一の装置を保有していない場合には、同じ判断基準で検査を行うことができない。また、ベルトコンベヤーに載らない大型製品の検査や、工場外での検査には対応が難しいという課題もあった。講演では、これらの課題を解決する手段として、小型のAI検査装置が開発されつつあることが紹介された。

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