連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントを解説する。連載第4回では「日本製品の品質が良い」とは“一体何が良いのか?”について掘り下げて考える。
筆者の自家用車であったフォルクスワーゲンは、走行距離がちょうど合計10万キロ(km)に達したところでエンジンが壊れ廃車となった。海外製の自動車に対し、日本車の場合は10万kmを超えてもまだ十分に走れるものが多い。そのため、「日本車は海外の自動車と比べて品質が良い」といわれている。今回は、ここでいう「品質が良い」とは“一体何が良いのか?”について掘り下げて考えてみたいと思う。
連載第3回で、図1に示す設計品質の中身をお伝えした。その中のどれであるかを考えてみる。
製品を市場で販売するには、不特定多数の人がいろいろな使い方をしても簡単に壊れない設計が必要だ。いろいろな使い方とは、通常以上の頻度や力を加える使い方、もしくは通常では考えにくい扱い方のことである。ノック式ボールペンを例に考えてみると、通常以上の頻度とはノック部を1日1000回以上も押すようなことであり、通常以上の力とはノック部を100N以上の力で押すようなことである(通常を10Nとする)。そして、通常では考えにくい扱い方とは、ノック部を親指で押すのではなく、テーブルをたたくようにして押すようなことである。
製品の通常の使い方だけを想定し、試験を行い市場で販売しても、不特定多数の人がいろいろな使い方をすれば、ほとんどの場合、その製品は壊れてしまう。よって、通常以上のいろいろな使われ方も想定して設計し、試験を行わなければならず、このように製品が簡単には壊れないことを「信頼性」という。
信頼性は、製品に優位性を持たせる最も重要な品質の一つであり、その「高い/低い」のレベルは各メーカーで決められ、試験内容と併せてほとんどが企業機密である。開発中の自動車の試験走行では、自動車の外観はシマウマのようにカムフラージュされ、試験用のサーキット内を外から見ることはできない。試験内容が盗まれるとは、製品に優位性を持たせる方法を盗まれてしまうのと同じだからだ。だが、場合によっては、本来企業秘密であるはずの試験内容の概要がカタログ/Web広告/TVのCMなどを通じ、製品PRに活用されるケースもある。
信頼性の定義は「与えられた条件下で、与えられた期間、要求機能を遂行できること」である。「与えられた条件下」とは、室温/湿度や太陽光などの環境であり、「与えられた期間」とはメーカーの想定する使用年数である。「要求機能」とはカタログなどに記載のある製品仕様のことであり、カタログに記載されていない非公開の項目も多い。
メーカーは、自社製品の信頼性を検証するために試験を行う。多くの製品に適応できる汎用(はんよう)的な試験に関しては、その内容がJIS(日本産業規格)などに記載されている。しかし、特徴的な製品の場合やメーカー独自の信頼性の方針があれば、その試験内容は製品個々、メーカー独自で考える必要がある。
信頼性について理解する際、次の4つに分けて考えると分かりやすい。
「規格あり」とは、JISや業界標準で試験内容が決まっているものである。「カタログに記載あり」とは、メーカーとしてアピールしたいものとなる。それぞれを見ていく。
Appleの「iPhone」の防水性能としてうたっている「IP68」は、国際規格のIECで試験内容が定められている。正確には防塵(じん)/防水性能であり、十の位の「6」が防塵性能、一の位の「8」が防水性能だ。それぞれのレベルが6と8まであるので、共に最高レベルである。防水性能レベル8は製品を継続的に水中に入れても有害となる影響がないことであるが、その試験内容が分からなくても「防水性能 IP68」とカタログに記載してあることが製品のアピールになる。図2は、防水試験の一例である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.