社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第1回のテーマは「製造業の仕組みとODM」だ。
製造業のビジネスを始めるアントレプレナー(起業家)、あるアイデアで製品化を目指す個人、板金部品などの部品メーカーや海外の雑貨/電気製品などを扱う輸入販売業者などが、自社オリジナル製品の製品化にチャレンジしている。しかし、これらの企業には製品を設計する設計者がいないため、設計者を採用するか、ODM(設計製造委託)をすることになる。
筆者がこれらの企業を支援する場合、まず「製造業」の仕組みの説明から始める。「製造業」という言葉の意味の範囲は広いため、TVのニュース番組などでこの言葉が出てきても、具体的にどのような企業であるか分からない人がほとんどだからだ。そのためか「アイデアを思い付いたので、中国の製造工場を教えてほしい。作ってもらいたい」と依頼してくる人や、ターゲットユーザーが誰になるのかよく理解しないまま、製造業のシステムを設計しているSaaS(Software as a Service)系企業があるくらいだ。
筆者の前職、ソニーでの仕事はプロジェクターの機構設計であった。設計では、製品の部品構成とそれらの部品の形状を3D CADで作成し、設計データとして3D CADデータと2D図面データをアウトプットする。しかしながら、これらの設計データだけでは、プロジェクター(製品)はできない。これら2つのデータをもって、多くの協力メーカーの支援を得ながらプロジェクター(製品)が出来上がる。筆者は設計者であったため、その製品化プロセスの中の業務の一部を担当しているにすぎなかった。
「製造業」の仕組みを理解していないと、たとえ設計者を採用したり、ODMをしたりしても、製品化プロセス全体のどの業務をしてもらえるのか分からない。このようなことから、本連載では、製品を作るための「製造業」の仕組みとそれにひも付く製品化プロセスについて解説する。
一口に「製造業」といっても、その企業の種類はたくさんある。筆者はプロジェクターの設計者であったため、プロジェクターを例にとって製造業の仕組みを解説する。例えば、衣類や化粧品などとは異なるのでご了承願いたい。
製造業は、次の3つの企業を起点として考えると分かりやすい。それらは、設計をする「設計メーカー」、部品を作製する「部品メーカー」、製品を生産(組み立て)する「組み立てメーカー」だ。一般的には「設計メーカー」「組み立てメーカー」という言葉は用いないが、理解しやすくするためこのように表現する。
設計メーカーのアウトプットは設計データである。まず、製品企画書を作成する。その後、これに基づいて部品Aと部品Bを構成部品とする製品ABを設計すると考えると、設計データは次になる。
部品メーカーのアウトプットは部品である。設計メーカーから提供された部品Aと部品Bの設計データから、次の部品を作製する。
組み立てメーカーのアウトプットは製品である。部品Aと部品Bを部品メーカーから購入し、設計メーカーから提供された製品ABの構成表と組み立て設計データに基づき、それらを組み立てて製品ABを作製する。
最後に、設計メーカーは組み立てメーカーから製品ABを購入して、販売会社や個人の顧客に販売する。この部分に関しては他の方法もあるが、本連載のテーマからそれるため割愛する。
設計者を採用すると、設計メーカーの4つアウトプットを作成してもらうことになる。設計の専門分野の種類は多く、大きく分けて機構設計、電気設計、ソフトウェア設計がある。さらに機構設計は、部品の役割で分類すると外装設計、駆動設計などがあり、また材料で分類すると板金設計、樹脂設計などがある。もちろん電気設計、ソフトウェア設計も細分化される。よって、これから作ろうとする製品の設計に必要な専門技術は何なのかを十分に理解した上で、設計者を採用しなければならない。
ODMをするとは、前述の4つのアウトプットの作成と製品ABの組み立てを、1つの企業に委託することだ。ODMメーカーに4つのアウトプットを作成してもらう際、製品企画書を提供するだけでは、設計メーカーの考えは伝わりにくい。よって、製品企画書の内容をより細かく具体化した製品仕様書を作成し、ODMメーカーに提供する必要がある。製品仕様書の内容に関しては、以降の連載で解説する。
部品メーカーは、ODMメーカーが通常取引している企業となる。特殊な部品がなければ、設計メーカーが部品メーカーを探したり、打ち合わせしたりする必要はなく、ODMメーカーに一任する。よって図3では、部品メーカーをODMの赤色鎖線の中に入れた。設計メーカーの立場からすれば、ODMメーカーを選定すれば、部品メーカーも一緒に付いてくると考えてよい。なお、ODMをすると設計メーカーは設計する必要がないため、この名称は適切ではないかもしれないが、説明上このままとしておく。
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