連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントについて解説する。連載第2回は、製品化の際に必要となる志の考え方を取り上げる。
前回は、ユーザーにどのようなメリットを提供したいかという志がなければ、製品を設計、生産して販売するのは難しいということをお伝えした。同時に、日本製品の特徴ともいえる技術先行の製品でも、志の後付けによって成功した好例(日清食品「カップヌードル」)があることも紹介した。今回は、この志の考え方について取り上げる。
昨今、「パーパス経営」という言葉がはやっている。この言葉は、企業として世の中にどのような幸せを提供するか、もしくは世の中のどのような社会問題を解決するかを明確に掲げる経営のことを意味する。企業の使命として、SDGs(持続可能な開発目標)や地球温暖化によるカーボンニュートラルが必須となってきている現在、「パーパス」という言葉の重要性がより一層増している。
次のような視点からも、企業がパーパスをうたうことの重要性が分かる。中国などのアジア諸国の技術力が上がるにつれて日本の競合製品が増えてきた。同時に、Web技術の進歩により、誰もが世界中の製品を比較して購入できるようになってきた。このような環境では、良い技術を備えた技術先行の製品、他社と比較して技術的にスペックが上回る製品というだけでは消費者の食指は動かず、その製品を作っている企業のパーパスが何であるかも、消費者が製品を選択する基準の一つになりつつあるのだ。
ここでは、企業におけるパーパスの話をしたが、製品に関しても同じことがいえる。製品を世の中に出して、ユーザーにどのような幸せを提供するか、またこの製品でどのような社会問題を解決するかが製品化では大切なのである。
パーパスの次に大切なのは「ビジョン」だ。ビジョンは視覚的な意味を持ち、パーパスを達成しているその製品を使用する人の姿やその光景といえる。アップルの「iPhone」でいえば、オフィス街を歩いているスーツ姿のビジネスマンが、歩きながらポケットからiPhoneを取り出し、片手で操作して電話をかけるという便利さを体感している姿と光景である。
製品の外観デザインでもビジョンがとても大切になる。このビジョンにより、ポケットに入るiPhoneのサイズが決まり、片手で操作できるボタンの配置が決定するからだ。
筆者は、このパーパスとビジョンを合わせて「創りたい市場」と言っている。モノを作る製品化では、感覚的なパーパスだけでは人に伝わりにくく、視覚的なビジョンと合わせた方が分かりやすいからだ。iPhoneを例にこの創りたい市場を一文にすると「ポケットから取り出した1台のハンディー機器で、歩きながら電話やWeb検索をしたり、音楽を聞いたりといった便利さを体験できる市場」ということになる。
創りたい市場を達成するためにすべきことが「ミッション」である。iPhoneの例で言えば、ガラケーと「iモード」と「ウォークマン」を合体させることがミッションとなる。ミッションには「使命」や「任務」という意味があり、モノづくりの場合は、創りたい市場を達成させるために技術的にすべきこと、と考えると分かりやすい。
創りたい市場は「どのようなモノを作るか」であり、それは後述する製品企画で決めることになる。そして、ミッションは「どのようにモノを作るか」であり、後述する設計企画で詳細かつ具体的に決める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.