閑話休題。最後に家電製造の動向をお伝えしましょう。
インドネシアの大きな特徴として、1万を超える大小の島から構成されている国土があります。タイやベトナムのように、陸路だけで物流が完結する国と異なり、販売物流網の整備が重要になります。日系の家電メーカーのインドネシア進出は1980年代までさかのぼります。過去何十年もかけて築いた物流網、販売店網は大きな財産といえます。特に地方部市場では圧倒的な優位性があるといわれています。
しかし、相対的に購買力の大きい都市部市場では、韓国、中国を始めとした新興国メーカーとの競合が始まっています。特に韓国メーカーの「選択&集中戦略」は日系メーカーにとっては大きな脅威といえるでしょう。韓流ドラマ、K-POPを通じて若者のマインドシェアを確立した韓国ブランドは、他のアジア諸国の市場と同様に、特定の製品グループでは既に市場占有率1位を獲得しています。例えば、下記の表は2009年にドイツの調査会社GfKが行った市場調査結果から、インドネシア市場におけるLG電子製品のシェアを抜き出したものです。
製品 | 割合 |
---|---|
LCDテレビ | 30.6% |
PDPテレビ | 44.5% |
DVDプレーヤー | 17.4% |
Blu-ray Discプレーヤー | 52.6% |
オーディオ | 33.1% |
インドネシア市場におけるLG電子製品のシェア(出典:2009年 GfK) |
他のアセアン各国に展開する製造拠点が、国内市場だけではなく、地域市場への供給拠点の位置付けであるのに対し、インドネシアの製造拠点は、インドネシア国内市場向けの製造拠点であるケースが多いようです。現在はいいことだらけのインドネシア市場ですが、こうした単独市場に依存した「モノづくり」は、市場動向に大きく左右される危険性があります。
1997年7月、タイで始まった通貨危機はあっという間にインドネシア経済に深刻なダメージを与えました。ルピアの価値が下落、銀行の信用不和が広がり、IMFからの緊急融資が発動されました。この時の対応の拙さが、当時のスハルト大統領を退陣に追い込んだといわれています。
しかし、2008年のリーマンショックによるインドネシア経済への影響は軽微であったといわれています。当時のインドネシア経済は世界経済とリンクするレベルになかったからだといわれていますが(当時は輸出依存度が低かったことなどによる)、この数年間で状況は大きく変わりました。
多くの外資がインドネシア経済に流入し、国内経済成長の原動力となっています。何かのきっかけで、こうした外国からの投資が減少したとき、インドネシア経済に自立できるだけの十分な体力はまだ付いていないでしょう。そのとき、国内市場向けの生産拠点はどのような対処が取れるのでしょうか。私見ですが、インドネシアのカントリーリスクは少し、過小評価されている気がします。
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さて、次回の第5回は「出稼ぎ王国フィリピン」をお送りします。
(株)DATA COLLECTION SYSTEMS代表取締役 栗田 巧(くりた たくみ)
1995年 Data Collection Systems (Malaysia) Sdn Bhd設立
2003年 Data Collection Systems Thailand) Co., Ltd.設立
2006年 Data Collection Systems (China)設立
2010年 Asprova Asia Sdn Bhd設立- アスプローバ(株)との合弁会社
1992年より2008年までの16年間マレーシア在住
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