これら電池の世界では、工場の中での製造工程を見る機会はほとんどない。なぜならば電池の競争力となるのは製品の構造ではなく、製造方法だからである。製造工数をいかに減らすか、あるいはどのように合理的に作るかといったことがコスト低下につながり、利益率を上げることになる。
生産ラインは複数の工程に分かれるが、製造機器はそれぞれの工程ごとに別のメーカーに発注し、全体像が分からないようにする。そうは言っても採用の全メーカーを当たってどういう機械が納入されたかが分かれば、業界の人なら製造ラインの大まかな想像はできるだろう。
製造工程をブラックボックス化するためには、どこか1工程だけでも、自社設計・製造の機器を入れる必要がある。これができるメーカーが、ある意味生き残れるわけである。
さらに納入業者も含め関連あるいは同業他社には、製造工程の音も聞かれないよう、細心の注意を払う。特徴的な音が出る工程において、その音が何回鳴ったか、そういうことでも製造のノウハウが漏れる。そういうシビアな業界なのである。
太陽電池が注目されている理由の一つは、太陽が再生可能エネルギーだからである。自然現象を利用し、枯渇することがなく、廃棄物がリサイクルあるいは自然に戻るエネルギー、それが再生可能エネルギーの定義だ。
もう一つの理由は、太陽エネルギーの“尋常ならざるエネルギー量”である。ある試算によれば、仮に太陽エネルギーを100%電気エネルギーに変換できるならば、1時間地球に降り注ぐ太陽エネルギーで世界の1年間分に相当する電力が得られるそうである。
しかしそこには変換効率の問題が常にある。特に太陽電池の場合は、大量に発電するためにはそれに応じた大量の面積が必要で、国土が小さい日本においてはまさに、少ない面積で多くの電力が取り出せる変換効率こそが、競争力の要となる。
現在ソーラーパネルとして一般家庭用に市販されている製品の中で、比較的変換効率が高いのはシリコン系だが、この方式の理論的な変換効率の限界は約30%程度だと言われている。宇宙開発用としては別方式でもっと高効率のものもあるが、地上での幅広い利用を考えると、この30%にいかに近いかというところが一つの目安になってくるだろう。
消費者が自分でも発電可能という点で、太陽電池は最も身近に感じられる方式である。しかし次世代の発電方式として他に目を移せば、風力、地熱、潮力など、注目すべき発電方法は数多くある。これらの方式がいまだ日本で本格稼働が行なわれていないのは、コストや制御ノウハウ、伝送インフラ、蓄電など、さまざまな問題をクリアする必要があるからだ。さらには国単位での社会構造を変えるといった大掛かりな転換もまた、必要になってくる。
エネルギー供給は、巨大企業が巨大設備で一気に担うという、私たちの生活と懸け離れたところでの問題ではなくなってきた。個人で、あるいは会社単位でできることは何なのか。このような視点でエネルギー問題を語っていければと思っている。今後の連載にご期待いただければ幸いである。
(取材協力:三洋電機)
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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