手のひらサイズのガスタービンには、日本のエンジン製造技術の粋とエネルギーの未来が詰まっている。いままでの常識を超えた発電機の開発はどのように行われたのだろうか。実機の動作も動画で見てみよう。
震災以降の電力需給への不安から、多くの人が主幹電力というものに関心を持ち始めた。震災前の日本の電力構造は、原子力をベース電力にし、その上に火力、水力、さらにその上に別の方式が乗るというものだった。
大半の原発が停止したいま、その不足を補っているのが火力であるということは、皆さんもご存じだろう。だがこれまで火力発電は、あまりにも昔からある発電方式なので、あらためて意義を考えることは少なかったように思う。
調べてみると火力発電とは、投入する燃料で分けると、天然ガス・石油・石炭の3つに分類できるようだ。だが発電方式でいうと、「蒸気タービン型」「ガスタービン型」の2つに大きく分かれる。火力発電というと多くの人は、石炭や石油を燃やして水を沸騰させ、水蒸気でタービンを回して発電するようなイメージを持っていることだろう。これは、上記分類でいうと蒸気タービン型だ。
一方のガスタービン型は、天然ガスや重油・軽油を使い、高温・高圧の燃焼ガスでタービンを回す仕組みだ。タービンの回転によって発電機を回す。
我々が普通に暮らしていてガスタービンそのものに出会う機会はないと考えることだろう。しかし、例えば空港に行けばジェット機のエンジンを見るはずだ。ジェットエンジンは発電をするものではないが、実はこれが我々に最も身近なガスタービンだ。
ガスタービンとジェットエンジンのコア部分の構造はほとんどど同じだ。ただ、異なるのは、高圧ガスの噴流によって発生するエネルギーの使い道だけである。ガスタービンが回転エネルギーを電力として取り出すのに対して、ジェットエンジンは高圧ガスの噴流そのものを航空機の推進力として利用する。
さて、火力発電は出力調整がしやすいので、電力需給バランスの調整に使われるという話をよく聴く。そこで用いられる火力発電とは、ガスタービンによる発電のことである。
ジェット機に乗ったことがある人はお分かりだと思うが、ジェットエンジンは点火して30秒から1分程度ですぐに推進力が得られる。立ち上がりが早く、出力調整が素早くできるからこそ、飛行機に使われているのであり、またこの特性があるからこそ、電力需給の細かなバランス調整に使えるというわけだ。
発電所に設置されているガスタービンも、最初から発電用に開発されているものと、航空機用ジェットエンジンを転用して発電機化しているものとの2タイプがある。大まかな電力需給調整は発電用、より細やかな調整が必要な場合はジェットエンジン転用タイプ、というように使い分けている。またジェットエンジン転用タイプは、病院などの非常用発電機にも利用されている。
もし、小型のガスタービンで発電したいという要望があっても、元はジェットエンジンなどに使う製品であることもあり、発電機として作るとそれなりのサイズになるのが当たり前であった。では、誰でも持ち歩けるぐらいの超小型ガスタービン発電機ができたらどうなるだろうか。
それを実際に開発したのが、IHIである。2012年2月に、手の上に乗るサイズの超小型ガスタービンを開発したというプレスリリースがIHIから出た*。発電機内蔵のコアエンジン部分は、確かに手に乗る大きさである。これに燃料供給や制御を行うシステム、吸気・排気機構を付けると、だいたいジュラルミンケースぐらいの大きさになる(関連記事)。
開発したIHIは、そもそも航空・宇宙開発分野でジェットエンジンの製造を行っている。本社ビル1階のショールームには、同社が製造した国産初の量産ジェットエンジンが展示してある。
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