経済産業省 特許庁は2025年4月11日、知的財産権制度を積極的に活用した企業を表彰する「知財功労賞」の令和7年度(2025年度)受賞者を発表し、古河電気工業(古河電工)や富士フイルムホールディングスなどが選ばれた。
【訂正】初出時に、記事のタイトル、本文に誤った社名を掲載していました。お詫びして訂正致します。
また、2025年は専売特許条例(現在の特許法)が公布されてから140周年となることから、産業財産権制度の普及、発展に極めて顕著な功績があった企業などに対し「内閣総理大臣感謝状」の贈呈を行う。
経済産業省 特許庁では毎年、知的財産権制度の発展と普及、啓発に貢献のあった個人の表彰を行うとともに、制度を有効に活用し円滑な運営と発展に貢献のあった企業に対して「知的財産権制度活用優良企業等表彰」として、経済産業大臣表彰および特許庁長官表彰を行っている。
2025年度知財功労賞からは新たに、農林水産/食品分野において、知的財産権その他の知的財産を効果的に活用した企業に農林水産大臣表彰および輸出・国際局長表彰も行う。さらに2025年度に限り、2025年日本国際博覧会(以下、大阪・関西万博)の開催に向けて、知的財産を活用し、万博の機運醸成などに貢献した企業に対して、大阪・関西万博特別賞が贈られる。
2025年度の知財功労賞で経済産業大臣表彰のうち、知的財産権制度活用優良企業として表彰されたのは、以下の7社(団体)となっている。
- 古河電気工業:差別化技術を特許とノウハウで保護しビジネスリスクを最小化する「リスクミニマム」と、IPランドスケープで新事業を探索する「チャンスマキシマム」に取り組んでいる
- リガク:X線分析装置業界のパイオニア的存在で、多数の重要な要素技術で独自技術と特許を有し市場創出に取り組んだ。事業部や研究所の代表委員で構成される知的財産委員会で全社的見地から事業や研究と一体の知財戦略を進めている
- 井原商工会議所:デニムの聖地として「井原デニム」のブランド化に取り組む。「井原デニム審議会」を設立し、同審議会の審査に合格した製品を地域ブランド製品に認定して信頼性と品質を担保する
- 岡本:「ブランド価値経営」を経営戦略として掲げ、知財を最大限に活用していく知財戦略を策定。EC上の模倣品は、ECサイトに申請してWebページ削除の対応を取っており、商標権に関わる削除件数は年間延べ約700件に及ぶ
- Heartseed:iPS細胞から心筋細胞を作製して心臓組織に移植する心不全治療法を開発する慶應大学発スタートアップ。強みである心筋細胞の純化精製技術について、積極的な特許出願と論文発表などにより将来のパートナーの目にとまりやすくするなど、研究とビジネスの視点をミックスした戦略を構築している
- 馬路村農業協同組合:ゆずが特産だが、ゆずではなく村を前面に出す「村をまるごと売る」戦略を推進し、競合と差別化。研究開発の成果とブランド価値を守るため、特許や商標を取得し、模倣品への対策などにも取り組む
- 富士フイルムホールディングス:知財部門はデザイン部門と協働し、デザインと技術の両面から自社の強みを無形資産で保護と強化を行う。IPランドスケープを活用した開発方針策定への寄与や、事業優位性を獲得する標準化戦略、事業利益を最大化する権利活用などに取り組む
2025年度の知財功労賞で特許庁長官表彰のうち、知的財産権制度活用優良企業として表彰されたのは、以下の14社(団体)となった。
- ガイア環境技術研究所:地域の炭焼職人が蓄積してきた技術を応用した炭化装置「SUMIX」を開発。構造は特許、外観の特徴は意匠で保護し、侵害を検知しにくい温度管理パラメータなどはノウハウとして秘匿することで、競争力を維持している
- キリンホールディングス:会社として知財をサステナブルな成長実現の原動力と位置付け、各事業会社社長や研究所長と知財部門が対話する場を定期的に設定し、事業部門や研究部門と連携した知財の獲得と活用を実現している
- グンゼ:開発と知財のコミュニケーションや手続を効率的に行えるよう、各事業部門の開発責任者をDPO(Division Patent Officer)に任命。DPOは、出願の承認や侵害対応など、知財管理に関わる役割を担う
- 積水化学工業:知財戦略は、事業への貢献を見据え、市場、技術、知財の3つの視点から分析して構築。特許マップなどで見える化することで事業部門と連携し、権利化して独占する領域や秘匿する領域などを見極め、開発テーマの状況に即した権利設計と投資対効果の最適化を図る
- 坪田ラボ:医療機器、医薬品、非医療機器を開発しているが、自ら製造や販売は行わず、自社のアイデアを大学との共同研究を通して特許化し、パートナー企業にライセンスして収益を得るビジネスモデルを展開
- 日華化学:「グローバルニッチカンパニー」を掲げ、60の技術分野で少量多品種の戦略に対応すべく、分野ごとの戦略に合わせた知財ポートフォリオ構築を推進。事業・研究・知財三位一体の連携を目指し、研究員の中から兼務で特許リエゾン14人を任命してコミュニケーションを円滑化している
- メトロール:模倣品排除やブランド力強化を目的に、基幹製品など重要性の高いものを特許権、意匠権などで多面的に保護し、生産技術のノウハウも組み合わせ、ニッチな市場で自社製品を防衛している
- シヤチハタ:意匠、特許、商標で多面的に保護してブランドを守る戦略を推進。技術面の大きな変更を伴わない商品リニューアルや他商品への横展開では、新たな付加価値に関係する部分を主に意匠で保護している
- カプコン:知的財産部はビジネス展開に伴走し、幅広い分野で先読みしながら商標を登録する。また、知財の保護にとどまらず、知的財産部にて自社の知財を活用するアイデアを関連部署に提案し、デザイン思考で経営に貢献する次世代型知財部へのリブランディングを推進している
- エイターリンク:迅速な意思決定や積極的な特許出願、早期審査の活用などにより、大企業に先んじて強固な特許網を構築することを繰り返し、市場優位性を確立している
- 三菱電機:知財を他社連携ツールとして活用し、パートナー企業の技術との掛け算により新たなビジネスの創出を目指す「Open Technology Bank」活動を開始。知財戦略部で案件毎に開発部門や営業部門などを巻き込んでプロジェクトチームを編成し、個々の案件を主導している
- カンディハウス:創業当初からデザインを最も重要な経営資源とし、製品の意匠やロゴなどの商標を登録し、ブランドの一貫性を維持する
- 錦城護謨:商品開発から組織開発まで、経営上の全てに一貫してデザイン思考を取り入れている
- 能作:伝統産業「高岡鋳物」を継承しつつ、世界で前例のないすず100%の鋳物製品や、曲げられるインテリア「KAGO」シリーズ、大口注文に対応できる新たな鋳造法など、イノベーションに取り組む
大阪・関西万博特別賞は、鹿島建設、金森合金、サイエンスが受賞した。また、農林水産大臣表彰はサンファーマーズ、輸出・国際局長表彰は綾園芸と栃木県が受賞している。
専売特許条例公布140周年の内閣総理大臣感謝状は、旭化成、NTTドコモ、ブリヂストン、今治タオル工業組合、サタケ、福井経編興業に贈られる。表彰式は2025年4月中に開催される予定だ。
≫「知財ニュース」関連記事のバックナンバー