モノづくり企業が知財戦略に取り組む意味とは?弁護士が解説!知財戦略のイロハ(1)(1/4 ページ)

モノづくり企業の財産である独自技術を保護しつつ、技術を盛り込んだ製品、サービスの市場への影響力を高めるために重要となるのが知的財産(知財)だ。本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業に向けて、選ぶべき知財戦略を基礎から解説する。

» 2020年05月15日 08時00分 公開
[山本飛翔MONOist]

 読者の皆さまはじめまして。弁護士の山本飛翔(ヤマモトツバサ)と申します。モノづくり企業の皆さまが知財を活用して事業を成長させていただくにあたってお役立ていただけるような記事をこれからご紹介していこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 本連載の概要を説明する前に、まずは筆者の経歴を紹介させていただきます。私は司法試験合格後、知財に強みを持つ中村合同特許法律事務所に入所し、国内外の大手企業を中心に知財・企業法務のサポートをして参りました。また、弁護士になって以来一貫してスタートアップのサポートも続けており、東京都や神奈川県のアクセラレーションプログラムのメンター・講師を務め、2020年3月には「スタートアップの知財戦略」(単著)を出版し、同月には特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門にて奨励賞を受賞しました。また、大手企業とスタートアップの両方をサポートしてきた経験を生かし、特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成および契約ガイドラインに関する調査研究」に事務局として関与しております。

 本連載では筆者が日々の知財実務や、数多くのモノづくり企業経営者との知財戦略のディスカッションを通じて得た経験から「事業成長を目指す上で、モノづくり企業はいかに知財を活用すべきか」という点を皆さまにご紹介していきます。

 読者の方になるべく具体的なイメージを持って読み進めていただくために、連載では「これから新しい製品を出す予定のモノづくり企業」を仮想事例として設定し、知財戦略の構築プロセスを製品開発計画時、実際の開発着手時、完成後の製品発売時、プロモーションの実施時、販売拡大期などのフェーズに分けて、それぞれのフェーズでモノづくり企業は知財をどのように管理、活用するべきなのか、またその結果生じるメリットは何かといった諸点を具体的に解説していきます。

 それに先立って連載第1回である今回は、「知財を事業戦略に生かす」とは具体的にどういうことかを皆さんにイメージとして把握していただきたいと思います。まずはモノづくり企業による知財の活用例をいくつかご紹介していきましょう。

活用例1:競合他社へのけん制に

 自社で特許権や意匠権を取得した場合、当該権利を他社に侵害された際に、侵害者に対して侵害品の製造販売の差し止めや損害賠償請求が行えます。

 近時の例では、美顔器「ReFa(リファ)」で有名なMTGが、自社の特許権を競合他社に侵害されたとして特許侵害訴訟を提起しました。この結果、裁判所は侵害者に対し、侵害品の譲渡などの差し止め、侵害品の廃棄および損害賠償金約4億4000万円の支払を命じました(知財高判令和2年2月28日(令和元年(ネ)第10003号))。

MTGへの権利侵害が認められた侵害者の製品[クリックして拡大]出典:https://www.mtg.gr.jp/news/detail/2020/02/article_1834.html□MTG(ニュースリリース) MTGへの権利侵害が認められた侵害者の製品[クリックして拡大]出典:MTG(ニュースリリース)

 侵害品の製造販売を差し止められること自体のメリットも大きいですが、もう1つ、約4億4000万円という多額の賠償金が認められた点も注目に値します。

 このように多額の賠償金が認められた背景には、令和元年に公布された「特許法等の一部を改正する法律(以下、改正特許法)」の存在があります。特許法改正以前、事業規模の小さい企業やスタートアップは、自社の製造販売能力が侵害者の製造販売能力より劣る場合には、侵害者が莫大な利益を得ていても、その利益分を損害賠償として請求することはできませんでした。しかし改正特許法により、自社の製造販売能力を超える額でも請求できるよう、損害賠償額の算定方法が見直されました。これにより特許権侵害が認められた場合に、従来よりも多額の賠償額を請求しやすくなったのです。

 このように競合他社の動向を踏まえて特許権、意匠権、商標権などの知的財産権を取得することで、意に反する競合品の販売差し止めを申し立てられる他、多額の損害賠償の請求可能性により競合他社の動向をけん制して、市場における自社の競争優位性も高められます。

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