モノづくり企業が知財戦略に取り組む意味とは?弁護士が解説!知財戦略のイロハ(1)(3/4 ページ)

» 2020年05月15日 08時00分 公開
[山本飛翔MONOist]

オープンクローズ戦略に基づくAppleの取り組みとは

 これまでの内容を具体的に理解するために、ここではAppleが取り組んでいるオープンクローズ戦略を例として取り上げて説明していきたいと思います。AppleはiPhone、iPad、MacBookシリーズなどのハードウェア販売を主な収益源の1つとしていますが、かかるハードウェア販売を通じた収益向上などを目的に、以下のようなオープンクローズ戦略を実施しています。

(1)オープン化領域

 AppleはiPhoneやiPadをより魅力的な製品にすべく、iPodやiPhone向けのメディア再生、管理プレイヤーである「iTunes」に加え、iOS用のアプリダウンロードプラットフォーム「App Store」を(有料コンテンツを除き)いずれも無償で提供しています。この他にもiOSに対応したアプリなどの開発環境を整えるべく、オープンソース言語の「Swift*2)」などを無償で広く提供しています。Appleによると、Swift登場以前の同社の標準開発言語であったObjective-CやPython 2.7と比較して、Swiftは検索アルゴリズムのスピードが高く、ユーザーにとって使いやすいアプリを作るための環境整備の一役を担っているとのことです。

*2)AppleによるSwiftの解説ページ

 こうした施策の結果、iPhoneやiPadユーザー向けの魅力的なコンテンツやアプリが増え、同社のハードウェア製品購入者も増加。これに伴いiOSアプリを開発する事業者も増えるという好循環が生まれ、市場を拡大し続けています。

(2)クローズ化領域

 Googleが自社開発のOSであるAndroidを普及促進などの目的でオープンソース化しているのに対して、Appleは自社開発のOSであるiOSを他社に公開しておらず、AppleのみがiOSに対応したハードウェアを製造できるという状態を確保しています。こうして確立したクローズ化領域に先述のApp StoreやSwiftなどに代表されるオープン化領域掛け合わせることで、AppleはiOS対応のハードウェアの販売数を拡大しつつも製造権を独占し、大きな収益を上げているのです*3)

*3)例えばニュースサイトThe Informationの記事ではiPhoneXの利益率を60%前後としている。

 ちなみに、AppleとGoogleの取り組みの違いは、両社の収益構造の違いに起因しています。Googleは広告収入が大きな収益源の1つとしています。このため、Android搭載のハードウェアの売上で利益を大きくするというよりは、Androidのオープンソース化により他社製のAndroid搭載端末を増やした上で、AndroidにGoogleの各種サービスを標準搭載、自社サービスの利用者を増やす方が広告収入の増加、ひいては社全体の収益増加につながりやすいのです。

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