太陽光発電や風力発電を電力源として大きく成長させるにはどうすればよいのか。1つの解が「固定価格買い取り制度(FIT)」だ。FITが他の制度よりも効果的なことは、海外の導入例から実証済みだが、問題もある。その問題とは電気料金が2倍になることだろうか、それとも……。「小寺信良のEnergy Future」、今回はFITにまつわる誤解を解き、FIT以外にも日本のエネルギー政策に大きな穴があることを紹介する。
2012年7月1日、日本でも再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)が動き始めた。これは再生可能エネルギー生産市場をキックスタートさせるための制度だ。電力を長期にわたって固定価格で買い取ることを電力会社に義務付けている。
買い取り価格は、1kWh当たり太陽光が40円。バイオマスは32円、風力は22円*1)。向こう20年間、買い取り価格を固定する*2)ことで、発電事業の安定性を確保する狙いだ。
*1) いずれも税別の価格。太陽光の場合10kW以上が40円、10kW未満が42円である。風力は22kW以上が22円、20kW未満が55円。バイオマスは燃焼に用いる材料に応じて5種類に分かれており、固形燃料燃焼(未利用木材)の場合32円である。
*2) 20年間固定といっても、X年後に発電を開始した太陽光発電所の買い取り価格があらかじめ40円と決まっているわけではない。一定期間ごとに買い取り価格の引き下げが必要だ。FITの考え方では、引き下げがあった場合でも2012年7月に買い取りを開始した発電所からの買い取り価格は固定したままである。
だがこの買い取り価格には、批判も多い。他国の水準に比べて買い取り価格が高すぎるため、結局は電気料金という形で消費者の負担が重くなるからだ。しばしば引き合いに出されるのが、ドイツである。ドイツでは再生可能エネルギーを促進したため、電気料金が高騰した、ドイツと同じ失敗をするのではないか、という論調だ。
富士通総研が9月13日に発表した試算では、再生可能エネルギーの普及による国内の家計負担は、2020年までに月額820円程度重くなる可能性があるとしている。
しかしそもそもドイツは失敗したのだろうか。富士通総研 経済研究所の上席主任研究員である梶山恵司氏が2012年9月に発表した研究レポート No.396 「再生可能エネルギー拡大の課題」(PDF)では、FITの事情について日本とドイツを比較分析している。
同氏によれば、2000年に14セント/kWh(100分の14ユーロ)であった家庭の電気料金は、2011年には25セント/kWhと、2倍近く上昇している。
だが、電気料金の内訳を見ると、再生可能エネルギーの買い取り費用だけで電気料金全体が上昇しているわけではないことが分かる(図1)。再生可能エネルギーの買い取りにかかわる費用は、2000年の段階で0.2セント/kWh。これが2012年には3.53セント/kWhに増えてはいる。だが、基本の電気料金(発電送電小売り)なども、それと同じぐらいの幅で上昇している。
そもそもドイツの電気料金には、環境税や自治体税、付加価値税といったさまざまな税が課せられており、電気料金の約3分の1は税金である。一方日本の電気料金には、消費税しか掛っていない。
税金まで含めた金額で電気料金の総額を比較すれば、ドイツの方が高いという結果になる(図2)。国内の経済紙などの論調は、ドイツのようになってもいいのか、というものが多い。だが税を抜いて純粋に電気料金だけを比較すると、買い取り価格を含めてもなお、東京電力の方が既に、高コストだという結果になる。
とっくにドイツよりも、日本の状況の方が悪いのである。日本基準のFITが決まり、電気料金へ上乗せが始まると、ドイツよりもはるかに悪い結果となる。ドイツは失敗した、ドイツには学ぶところはない、とするのは、そもそも間違いではないのか。
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