特に太陽光発電に関しては、重視し過ぎているといわれても仕方がないほど優遇されている(図3)。単価だけでも2.5倍の差がある上に、日本はドイツに比べると緯度が低いため、年間日照量が2割ほど有利である。実質的な買い取り価格は、ドイツの3倍に達するだろう。
そもそも太陽光発電に必要な部材は世界共通なので、部材コストは世界中で同じである。日本だけがわざわざ高くしなければならない論理的な理由は、何もない。詰まるところ、ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏が算定委員会で発言した「仮に40円で仮に20年だと、(自治体が建設を要望した)二百数十カ所のうち200カ所は採算が合わない。見送らざるを得ない」*6)という意見がそのまま反映されている。
*6) 再生可能エネルギーの全量買い取り制度の調達価格等算定委員会が、2012年3月19日に発電事業者から意見聴取(第3回)を行なった際の発言。なお、太陽光発電協会(JPEA)は、42円/kWhという意見を出している。ニコニコ生放送で意見聴取の様子を視聴(ログインが必要)できる。
孫氏には「EU平均の買い取り価格は58円」という発言*7)もある。これは太陽電池モジュールの価格が大暴落する以前の2009年のデータであり、さらには大規模太陽光発電システム(メガソーラー)のコストではなく、一般家庭(屋根置き型)のコストである。
*7) 2011年4月22日に開催された自由報道協会主催の記者会見の様子をニコニコ生放送で視聴できる。
なお、スペインは、何の準備もなく買い取り価格を引き上げて、ソーラーバブル崩壊のきっかけを作った。2007年時点での買い取り価格は47セントであり、1ユーロ120円で計算すると56.4円。ほぼ孫氏の発言の価格に相当する。
このぐらいのことは、エネルギー問題の専門家ではない筆者がネットでちょっと調べただけでも分かる。本来ならば国策として決める買い取り価格は、国内外の再生可能エネルギーコストを研究している調査機関や、民間のコンサルタント会社を招致するなりして、長期間のモニタリング結果を基に慎重に決定しなければならなかった。さらには発電規模によるコスト差を無視しているため、大規模事業者に圧倒的に有利な仕組みになっている。
孫氏の発言にあった「自治体が要望した」という部分には強烈な影響力があった。メガソーラーは、自治体の工業団地誘致失敗の尻ぬぐいに使われているという指摘があるのだ。
本来ならば、太陽光発電システムは晴天の日が多い土地柄や、日中日陰にならない立地という条件さえクリアできれば、基本的にはどこに設置してもよいはずだ。そう考えれば、太陽光発電ぐらいしか利用できない場所、例えば屋根やビルの壁、汚染地域やゴミの埋め立て地など、地代がゼロの場所に設置するのが、もっとも低コストとなる。
しかし梶山レポートにもあるように、自治体が工業団地誘致に失敗した土地をメガソーラーに転用するために入札を実行した徳島の例がある。さらに調べてみると、同様の場所は北海道苫小牧市や鳥取県米子市、長野県富士見市、広島県呉市、栃木県矢板市、宮崎県川南町など数多くあるようだ。
不良債権化したこれらの土地が活用できるとして、マスコミではこれを歓迎する風潮がある。だが落札した事業者が支払う地代は、結局FITによる買い取り価格でまかなわれることとなり、負担は巡り巡って、電力の消費者が薄く広く電気代として支払っていくことになる。目先の土地利用だけ見ればうまい手のように見えるが、税金を投入して失敗したツケを、形を変えてまた市民から吸い上げるというのは、行政がやることとしては筋が悪い。
問題点の指摘についてはきりがないので、今回は太陽光発電のみの言及に留めるが、他の発電方式に対しても悪影響は免れない。研究機関によって検証され、今後の改定に反映されることを期待したい。
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