どこがダメなのか、日本のエネルギー小寺信良のEnergy Future(22)(4/5 ページ)

» 2012年10月25日 14時45分 公開
[小寺信良,MONOist]

方向を間違えた産業界

 再生可能エネルギーの導入を助けるFIT制度。だが、国のエネルギーの流れ全体を考えるなら、発電以外にも目を向ける必要がある。まずは、エネルギーの利用効率についての検討が必要だ。

 ドイツのエネルギー利用で特徴的なのが、「熱利用」が盛んなことである。バイオマス発電を含め、火力発電では大量の熱が放出される。一般的に火力発電では、投入する燃料に対しておよそ40%程度しか電力に変換できず、残りはほとんどが熱という形でロスになる。

 日本ではここで発生する熱をほとんど利用していない*8)が、ドイツでは安定的な熱利用先を確保することで、発電にかかわる総合エネルギー変換効率を高めている。例えば地方の小都市の熱利用を丸ごと廃熱でまかなうという形だ。

*8) 経済産業省は100〜500℃の範囲で、50度ごとに算出した年間廃熱量(大気に放出される熱量)を公開している。これによれば、300℃未満の熱の利用率が低く、年間約20万Tカロリーが無駄になっている。

 電気、熱、輸送に使用する燃料、この3つが、ドイツの産業部門や家庭部門を回しているわけである。一方日本では、電気と輸送燃料は同じだが、熱の利用がまずい。電気からその場で熱に変換するか、化石燃料を直接燃やすといった形で、別途、熱を生産して利用している。ここに問題が隠れている。

日本は省エネ大国ではなかった

 産業部門で工業生産とエネルギー消費の推移を比較してみよう。日本の場合は2007年と2009年に大変動があるが、平均化すれば20年間、工業生産自体が横ばいで、エネルギー消費もおおむね横ばいであるといえる(図4)。

図4 工業生産とエネルギー消費の関係 1990年を100とした相対値を示した。日本(図左)は鉱工業生産、エネルギー消費とも横ばいだ。ドイツは鉱工業生産が伸びる一方、エネルギー消費は下がっている(クリックで拡大)。 出典:富士通総研

 これは一見普通のことに思えるが、ドイツの例を見るとその考えが変わる。工業生産は右肩上がりなのに、エネルギー消費は下がっている。つまり、産業部門でエネルギーの利用効率が改善され続けているわけだ。

 運輸部門でも、同じ傾向が見て取れる。日本では旅客、貨物の走行距離がほぼ横ばいで、エネルギー消費も横ばいである(図5)。一方ドイツでは、旅客、貨物が飛躍的な伸びを見せる中、エネルギー消費が横ばいである。運輸業界でも、効率について同じようなイノベーションが起こっていると見ていい。

図5 運輸部門のエネルギー消費と走行距離の関係 1990年を100とした相対値を示した。日本(図左)はエネルギー消費(PJ)や旅客(人km)、貨物(tkm)のいずれも横ばい傾向だ。一方、ドイツ(図右)はエネルギー消費こそ横ばいだが、輸送量は大幅に増加している(クリックで拡大)。 出典:富士通総研

 つまり日本の産業部門と運輸部門では、エネルギー効率の改善をほぼ何もやってこなかったということなのか。

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