小寺信良氏の次世代エネルギー連載。今回は、太陽電池開発のスタートが早かった三洋電機に、太陽電池の開発経緯と構造について聞いた。
前回の記事(「太陽電池市場とその動向」)で太陽電池業界のあらましが分かったところで、今度は太陽電池の開発経緯と構造について調べてみたい。太陽電池開発のスタートが早かった三洋電機と、その代表的な製品であるHITの構造について取材させていただいた。
三洋電機が太陽電池の研究開発に着手したのは、1975年のことである。この前後に多くのメーカーが太陽電池の開発に着手しているが、それは当時爆発的なヒット商品であった「電卓」に搭載するためであった。
国内メーカーで最初に太陽電池搭載電卓を発売したのはシャープで、1976年のことである。シャープが太陽電池の開発に着手したのは1959年で、最初の電卓は単結晶シリコン型であった。ただ高価であったために、商業的には成功しなかったそうである。
一方三洋電機では、単結晶ではなくアモルファス型の研究を進め、1980年に世界で最初のアモルファスシリコン太陽電池搭載の電卓「CX-1」を製品化、実用化の波に載せた。当時の日本は第二次オイルショックに見舞われ、省エネが本格的に政策として実施された時代である。コスト的にも電池式電卓と対抗できる価格となり、これ以降電卓の普及とともに太陽電池は、世の中に広く認知されていく。このアモルファス太陽電池を開発した桑野幸徳氏がのちに三洋電機の社長に就任し、以降三洋電機をエネルギー開発企業として引っ張っていくことになる。
現在の看板商品であるHITは、単結晶シリコン系太陽電池である。現時点での最新モデルは今年(2011年)2月に発売を開始したHIT-N240系で、定格出力240W、セル効率21.6%、モジュール効率19%と、世界最高水準を誇る。先日、「国内最大規模の太陽電池工場がフル稼働」としてソーラーフロンティアの国富工場が紹介されたが、こちらは化合物系のCIS薄膜太陽電池のモジュールで変換効率は12.2%相当だというから、HITがいかに高効率かが分かる。
しかし単純に変換効率だけで、製品の善し悪しは測れない。HITはそのぶん価格が非常に高いのが難点で、国内での大規模な採用例は少ない。スーパーカーとファミリーカー、日常的に使う時にメリットがあるのはどっち? という命題と似ている。
一方海外では、今年イタリア南東部に大規模太陽光発電所が完成した。HITモジュールを3万2202枚も使い、太陽追尾システム付きの発電所としては、欧州最大だという。モジュールの型番が「HIT-235HDE4」ということから、最新のHIT-N240系ではなく、2010年10月より出荷が開始された定格出力が235Wのパネルだろう。
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