「充電長持ち」から始まった三洋の電池戦略小寺信良のEnergy Future(5)(1/3 ページ)

三洋電機の電池戦略を通じて、電気自動車や社会インフラ向けの電池が今後どのように変わっていくのか、小寺信良氏が解説する。

» 2011年09月15日 11時00分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

 筆者が初めて充電池なるものの存在を知ったのは、三洋電機「カドニカ」のコマーシャルであった。「充〜電〜長持ち充電長持ち "コテッ" カドニカ!」というフレーズは今でも耳に残っている。内容と言えば、カドニカと普通の充電池の着ぐるみを着た人間が縄跳びをして、"コテッ"のところで普通の充電池のほうが倒れる、というシーンが何回も繰り返されるという、実に他愛のないものだった。だが、1回の充電容量が多いこと、300回再充電可能(当時)というスペックをうまく体現した、よいコマーシャルであった。

 三洋電機がこのカドニカで充電可能なニッケルカドミウム電池に参入したのが1963年のことで、間もなく50年になる。ニッカド充電池は米国では1960年に商品化されているが、国内生産は三洋電機が最初であった。

 電池そのものの歴史をひもとくと、元はカエルの足であったという面白い話がある。電池を発明(1800年)したのは、イタリアの自然哲学者ボルタだが、その9年前にイタリアの医師ガルバーニがカエルを解剖中、足の神経に静電気を流すと足がビクビク動いたことを観察し、論文にまとめたことが、電池の発見につながったのだという。

 話が脱線したが、このカドニカは現在も三洋電機の充電池としては主力商品で、世界で約30%のシェアを得ている。ニッカド充電池は一気に大電力を出せることから、電動工具でいまだに多く使われており、この分野では三洋電機のシェアは約50%でトップである。

 現在三洋電機の充電池と言えばニッケル水素電池の「eneloop」(図1)が有名だが、現在同社はeneloopを製造していない。三洋電機はパナソニックの子会社となり、パナソニックにもニッケル水素電池「EVOLTA」シリーズがある。この両社が一緒になるとニッケル水素電池部門が各国の独占禁止法に触れるため、三洋電機の家庭用ニッケル水素電池の開発・製造部門は2010年に富士通傘下のFDKへ譲渡され、FDKはFDKトワイセルとなった。三洋電機は、eneloopの商品企画のみを担当している。

ALT 図1 三洋電機の「eneloop」 三洋電機はeneloopの製造から離れ、商品企画のみをおこなう。

電池から見たハイブリッドカー市場

 三洋電機の電池事業は、現在自動車用にシフトしている。電池の方式として、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池の両方を事業として抱えている(表1)。なお、ニッケル水素電池の家庭用部門は手放したが、電気自動車(EV)向け事業は残っている。

 現在市場で主流なのは、電池だけで走る電気自動車(BEV、Battery Electric Vehicle)ではなく、ガソリンエンジンを併用するハイブリッド車(HEV)である。HEVはトヨタのプリウスが市場で圧倒的な強さを占めており、国内メーカーではスズキや日産自動車、ホンダ、三菱自動車が参入、海外ではアウディやフォード、フォルクスワーゲン、プジョーが参入している。

表1 三洋のHEV向け電池事業

1997年 HEV用ニッケル水素電池の開発を開始
2004年 フォード向け電池システム量産開始
2004年 ホンダ向けHEV用電池モジュール量産開始
2006年 フォルクスワーゲンとHEV用ニッケル水素電池システム共同開発開始
2008年 フォルクスワーゲンとHEV用リチウムイオン電池システム共同開発開始
2009年 PSA・プジョーシトロエンとHEV用ニッケル水素電池システム共同開発開始
2010年 スズキの実証実験車両向けリチウムイオン電池システム納入
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