「充電長持ち」から始まった三洋の電池戦略小寺信良のEnergy Future(5)(2/3 ページ)

» 2011年09月15日 11時00分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

 三洋電機の取り組みを通して自動車業界を観察すると、3つのトレンドがあることが見えてくる。1つは言うまでもなく、完全電池駆動のBEVが実現するのは、一般車ではまだまだ先という事である。

 BEVはバスや小型トラックといった用途で一部実用化されているが、高価であり、自治体や企業のデモンストレーションなどの意味合いで使われていることが多い。電池側の課題は容量とコスト、自動車側の課題はモーターや電気系統の最適化と車体の軽量化、インフラの課題は、充電スタンドの配置など、BEV実現までにはまだまだ課題が多いと聞く。なお日産「リーフ」のように、プラグイン(家庭用コンセントから充電可能)なBEVを、ハイブリッドを飛び越えて一足飛びに実現した車もあり、市場動向が注目されている。

 2つ目は2006年あたりから、単なる電池やシステム納入ではなく、自動車会社との共同開発が増えてきていることである。電池のコストは車の価格全体の中で多くを占める。つまり単に電池を外部から買うだけでは自動車会社側の利益が少なくなるのである。さらに自動車メーカー特有の電源まわりの高効率化ノウハウを外部に漏らさないようにするため、電池メーカーと自動車メーカーの合弁企業でHEV用電池を開発する例が増えている。

 国内では、日産自動車とNECが2007年4月に合弁会社を設立している。三菱商事/三菱自動車とGSユアサは2007年5月に、ホンダとGSユアサは2009年3月にやはり合弁会社を作った。合弁会社を立ち上げた最も早い例はトヨタとパナソニックだ。1996年にプライムアースEVエナジーという合弁会社を設立しており、プリウスがHEVで最大のシェアを占めることから、同社が事実上HEV用電池メーカーとしては最大手ということになる。

 すなわち現状は、自動車会社ごとに電池会社が1つあるような状況だ。従って各社専用に電池がカスタマイズされているということになり、いわゆる標準仕様というものが存在しない。形状や容量、端子の形など、全てがバラバラである。

 当然仕様を標準化したほうが、大量生産によるコストダウンが見込める。従ってそう遠くない将来、何らかの標準化が進むのではないかと思われる。三洋電機の戦略は、どこのメーカーとも独占契約を結ばず、幅広く二次供給メーカーとしてのポジションを取るというものだ。1メーカー専用で事業を進めていると、標準化に乗り遅れる可能性が大きいことを懸念しているという。

 3つ目のトレンドは、HEVの主流は現在ニッケル水素電池であるが、将来的にはリチウムイオン電池を目指している、ということだ。現時点でニッケル水素電池がHEVに使われているのは、コストが安いからである。現状ニッケル水素電池の寸法辺りの電池容量(体積エネルギー密度)はリチウムイオン電池ほど高くはないが、車の電池依存度がそれほど高くないため、ちょうど釣り合った状態にある。

 だがBEVの実現に向けて、段階的に次第に電池に対する依存度は上がっていくことが考えられるため、容量が大きく重量が軽いリチウムイオン電池が主流になると考えられている(図2)。

ALT 図2 BEVへ至るまでの道筋 電池に対する依存度が低いときは、ニッケル水素電池で取り組み、依存度が上がるにつれてリチウムイオン電池が必要になっていく。出典:三洋電機の資料を基に作成

 リチウムイオン電池を搭載するHEVは、国産車ではトヨタ「プリウスPHV」「プリウスα」の7人乗りモデル、そしてBEVとして日産リーフがある。海外メーカーでは2011年から2012年にかけて、アウディやフォルクスワーゲンから登場するのではないかといわれている。

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