大きく動く日本のエネルギー政策。FIT発動を目前に、発電事業に乗り出すシャープの動向は太陽電池メーカーの将来を照らすか。
再生可能エネルギー関連のメーカーは日本にも数多くあるが、最近特に大きな動きを見せているのがシャープである。元来、太陽電池製造メーカーとして、単結晶、多結晶、薄膜、化合物系と幅広い方式で製品をリリースしており、研究所レベルでは色素増感や量子ドットなどにも着手している。
最近のニュースでは、ソフトバンクグループで自然エネルギー事業などを手掛けるSBエナジーが建設を計画している大規模太陽光発電事業の中で、群馬県榛東村で着工する施設で協業することが発表された。これはパネル供給はもちろんのこと、設計から施工、電力線への接続などに至るまでのコンストラクションを行う。
さらに自身が発電所そのものを作って経営する、独立発電事業者(IPP)としての道も模索している。同社国内最初の案件としては、北海道北見市の「陽気堂クリエート工業」との共同出資で発電事業会社を設立する計画がある。まだ用地確保要請段階ではあるものの、着工としては2012年6月を予定しているという。三洋電機のように、一般白物家電メーカーからエネルギー専門メーカーへ転身した例はあるが、発電所の経営まで始める例は恐らく初めてだろう。
太陽光発電をはじめ、再生可能エネルギーへの関心が高まったのは、やはり2011年3月の東日本大震災がきっかけである。もちろんそれ以前から、日本でも太陽電池の研究は進められていたが、住宅用としての細い需要はありながらも、今日のように大々的に注目される分野ではなかった。
本稿では@IT MONOistのサイトリニューアルに併せ、来年(2013年)に創業100年を迎えるシャープの太陽電池開発の歴史を振り返りつつ、あらためて日本の太陽電池開発の紆余(うよ)曲折、そして現在から未来へ日本企業がかじを取るべき方向性について整理してみたい。
“太陽電池”なるものの発明は、半導体の発明とほぼ同じで1950年代にまでさかのぼる。半導体は、集積化してトランジスタ、IC、LSIなど今日のIT技術の主幹部品としての道を歩んできたが、そもそもシリコンの特徴として、光に当てると電気を発生するという性質を持っていた。これが太陽電池の基本技術になるのだが、開発は遅々として進まなかった。
ICには電子機器の発達に不可欠という、目に見えるアプリケーションがたくさん想像できたために開発が爆発的に進んだが、太陽電池の場合は単にちょっと電気が出るだけで、それ以上でもそれ以下でもない。1950年代当初では、アプリケーションが見つからなかったのであろう。
最初に太陽電池として形になったのは、日ソ冷戦による宇宙開発競争の影響である。1954年に米ベル研究所が結晶シリコン型の太陽電池を開発、発表した。世界最初の人工衛星は、1957年に旧ソ連が打ち上げたスプートニク1号が最初だが、当時の人工衛星はセレンを使った蓄電池に電気をためた状態で打ち上げていた。しかし重い、寿命が短いというデメリットがあり、現地で発電できないか、ということで太陽電池の研究が進むことになる。
この方向性は、その後1990年ごろまで、太陽電池の用途を決めることととなった。すなわち電力線が引けない場所での独立電源という使われ方である。
日本での太陽電池開発は、NECが先行した。1958年には既に、福島県の山間部にある東北電力中継局舎用の独立電源として実用化している。電力中継局なんだから電気行ってるではないかという気もするが、送電用の高圧から100V電源を少しだけ取り出すというのは難しいのだろう。
シャープの太陽電池開発は1959年から始まった。同社初の単結晶太陽電池量産化は、1963年のことである。実はこの年に筆者が産まれているから分かるのだが、かなり昔である。そもそもテレビなどはまだモノクロで、TVアニメシリーズ『鉄腕アトム』が放映されていた時代だ。
このとき量産した太陽電池モジュールは、直径1インチのインゴットをスライスし、半分に切って並べたものである。現在は半導体の発達とともにウエハが大きくなって、10〜12インチ程度になっているが、当時はまだこの程度のサイズが精いっぱいだったわけだ。
このときの発電効率は、7〜8%程度だったといわれている。今から考えれば全然お話にならないものだが、それでも当時米国のAT&Tが製品化したものは変換効率が5%程度だったので、当時から日本の技術力が米国を抜いたわけである。
このモジュールは、灯台、測候所など、電力線が通っていないところの官公庁施設で使われた。写真は1960年代後半、海上保安庁が横浜港に設置したブイの電源として使われているところである。てっぺんに載っているのが太陽電池モジュールだ。
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