災害時の「非常食」ならぬ「非常電源」としての期待がかかる家庭用蓄電池。ソニーの一般家庭向けの小型蓄電池は、使える非常電源なのか。小寺信良氏が利用シーンを想定して評価した。
これまでの連載で、蓄電製品としてソニーと三洋の蓄電モジュールを紹介した。蓄電モジュールとは要するに充電池のカタマリで、組み込み用の部品である。実際に蓄電装置として動かすためには、これを交流(AC)で充電するためのコンバータと、ACとして出力するためのインバータを加えなければならない。そして商品化するわけだ。
ソニーは、オフィス用として、蓄電モジュールにインバータ、コンバータを内蔵した、一体型蓄電製品「ESSP-2000」を発売している。価格は200万円前後となっており、価格帯からしても業務用である。
一方で、停電のリスクにさらされるのはオフィスだけではない。大きなオフィスビルであれば自家発電設備を持つところもあるだろうが、一般家庭では停電してしまうと、なすすべもなくなってしまう。東日本大震災以降、東北地方の住民は長時間の停電を経験した。東京電力管内でも2011年3月の計画停電で、電気のない生活を強いられた。
そこで、ソニーは、一般家庭向けの小型蓄電池「ホームエネルギーサーバー」(CP-S300E/S300W)を商品化した(図1)。S300Eが東日本の50Hz地域用、S300Wが西日本の60Hz地域用である。約300Whの蓄電容量がある。
ソニーとしては前例のない製品だが、ソニーストアやソニーショップなどの自社流通網だけでなく、大手家電量販店でも扱いを始める予定だという。発売は10月の予定であり、完成版に近い試作モデルを評価することができた。今回は実際に使いながら、家庭用蓄電ビジネスの可能性を考えてみたい。
製品のレビューは本コラムの趣旨ではないが、参考のため、CP-S300Eの概要を紹介しておこう。やや大きめの加湿器程度の寸法で、上部には操作パネルと、その周りに目立たない放熱スリットがある(図2)。周囲は厚さ約3mmのアルミフレームで覆われており、かなり剛性が高い。重さは12kgで、ソニーのオリビン型リチウムイオン二次電池が入っている。
大容量リチウムイオン二次電池ですぐ思い付くのが、PC用バッテリーのセルとして使われている「18650型」だ。ソニーの業務用蓄電モジュールでは18650型よりももっと大型で産業用途向けに開発された電池セルが採用されており、CP-S300E/S300Wにも同じものが使われている。内蔵本数などは非公開。
内蔵電池の期待寿命は、約10年(加速試験の結果)。フル充電のままで1年間放置しても、約90%の電力を保持する。
蓄電容量は約300Whで、最大出力はAC100V、300Wとなっている。コンセントは前面に2つ。フル充電まで約6時間で、充電には付属のACアダプターを使用する。
フル充電になると自動的に充電が停止する。自然放電した場合、そのままアダプターを挿していても継ぎ足し充電はされない。フル充電した状態でACアダプターを取り外しておき、保管しておくというのが基本的な使い方となる(図3)。放電しながらの充電もできない。つまりUPS(無停電電源装置)のような使い方は想定されていない。
ホームエネルギーサーバーをAC電源として使うときにはこつがある。電気機器のコンセントを挿しただけでは駄目で、筐体上部の「出力ON/OFF」ボタンでONにしたときのみ、利用できる(図4)。出力中は常時緑のLEDが点灯し、残量表示も同様に点灯し続けるため、使用しながら残量の確認ができる。
この震災を受けて急ピッチで企画・開発を進めたものだそうだが、作りは非常にしっかりしており、安全性の面でも十分な対策がとられているという。
ただ現時点で幾つかの懸念もある。周囲が肉厚のアルミで剛性が高い(図5)のはよいが、上部パネル部が樹脂製なので、そこが弱点になるような気がする。地震などで上から落下物があった場合に、天板の出力ボタンが破壊されたら使えなくなるのではないか。
またもう一点、家庭内においては保管場所の都合から、ある程度の防水機能が必要ではないか。津波による水没に耐えるほどの設計を求めるのは酷だと思うが、上から花瓶が倒れてきた、水槽が割れて水を被ったなどの被害は想定できる。放熱スリットを設ける必要は安全面から理解できるが、物理スイッチを押し込む力で放熱口を開けるといった仕掛けを考えてもいいだろう。もっと単純に、防水用のカバーがあるだけでもずいぶん違う。
停電に備えた製品「ホームエネルギーサーバー」は出費に見合う製品なのか。これを次に検討したい。
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