エコロジカルで高効率、排出されるエネルギーの再利用性も高く、エネルギーの未来が詰まった燃料電池。中でも、あまり知られていない産業用燃料電池は、既に十分な運用実績もある上に、今後の応用が期待できるポテンシャルも備えている。
燃料電池といえば、筆者が得意なコンシューマ・エレクトロニクスの世界では、PC用の充電池の代わりとして小型のユニットを取り付け、ノートPCの稼働時間を延ばすといった方向で研究が進んでいることは知られていた。東芝がメタノールで発電するDynario(ディナリオ)という製品を2009年に市場投入したが、本体サイズ、本体コスト、燃料カートリッジの入手インフラなどの問題が解決せず、普及には至らなかった過去がある。
一方家庭用燃料電池としては、2009年ごろから東京ガスを始めとするガス会社が、「エネファーム」という名称で積極的に事業を展開していた。初期導入金額が350万円程度、経済産業省が実施する補助金を入れても個人負担が200万円程度と、安くはない商品だ。それでも富裕層を中心に戸建て住宅では導入が進んでいった。
しかし、原発事故による計画停電で、その弱点が明らかになった。なんと外部電源供給が絶たれると、ガスが供給されていて発電できる状態にあるにもかかわらず、自立運転できなくなってしまうのだ。安くない商品を発電機として導入しておきながら、停電時に発電できないというのでは、目も当てられない。そのため、エネファームにわざわざ外部電源としてバッテリーを接続するという、付け焼き刃的な対策がなされている。
一方、世界に目を向けると、燃料電池は産業用としてかなり大きな市場がある。特に都市ガスのインフラが整備されている先進国では、ガスそのものが安いこともあり、コスト面でも環境面でも注目されている。
今回は、日本で唯一産業用燃料電池を作っているメーカー、富士電機に取材をさせていただいた。日本の産業用燃料電池の実力が、いまどこまで来ているのかを探ってみたい。
燃料電池と聞くと、字面的には蓄電する電池のようなイメージがある。しかし、燃料電池に蓄電する機能はない。電気を発生させる装置という意味で「電池」なのである。実際には燃料を投入し続けることで、連続的に発電する、発電機と見なすことができる。
高校の教室に、電気を加えることで水を電気分解して純水素と純酸素を取り出す実験器具が置いてあったりするが、ごく単純にいうと燃料電池はあれの逆を行うものと考えてよいだろう。燃料としてのガスから触媒を使って水素を取り出し、空気中の酸素と結合させて水にする過程で、電気を取り出すわけである。
現在実用化されている燃料電池は、固体高分子形(PEFC)、りん酸形(PAFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)の3タイプがある。発電規模は、PEFCが最も小さく、PAFC、MCFCの順番で大きくなる。
そこに2011年ごろから固体酸化物形(SOFC)という方式が実用化され、従来はPEFCを用いていたエネファームの普及が急速に進んでいる状況だ。
世界で産業用燃料電池を製造している企業のうち、老舗といえるのは米国のUTC Powerだ。400kWのPAFCの他、PEFCも手がけている。スペースシャトルの電源として長い歴史があり、純水素と純酸素を燃料に発電し、副産物として生成される水を飲料水として用いるシステムを提供していた。
日本におけるPAFCのトップランナーは富士電機で、近年、耐久性と商品性を大幅に強化してきている。
MCFCは米国のFuelCell Energyが開発しているが、2011年に韓国のポスコパワーがこの技術のライセンスを受けて、産業用燃料電池事業に参入した。
SOFCは新しい方式だが、米国のベンチャーBloom Energyが急速に力を付け、さまざまな発電規模の製品をそろえて市場参入した。ただ、最近は燃料電池を販売するというよりも、Bloom Energy自体が顧客の敷地内に発電施設を設置・運用する発電事業に力を入れており、既にウォルマート、コカコーラ、オフィス用品世界最大手のステイプルズといった大企業と契約を結んでいる。といった大企業と契約を結んでいる。
さて、国内唯一の産業用燃料電池メーカー富士電機は、創業が大正12年と大変歴史のある会社だ。実は富士というのは当て字で、「ふ」は古河電気工業の「ふ」、「じ」はドイツ・シーメンスの「し」で、両社の資本・技術提携により誕生した。設立当初から電動機、変圧器製造といった電気事業製品を手掛ける、電気のプロとして事業を開始した。のちにここから電話部を独立させ、「富士通信機製造株式会社」を設立させたが、これが現在の富士通である。創業の地は現在の川崎工場で、今回の取材もここにお邪魔している。
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