産業用燃料電池にエネルギーの未来を見る小寺信良のEnergy Future(19)(2/3 ページ)

» 2012年07月25日 16時00分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

燃料電池はなぜ効率が良いか

 富士電機の産業用燃料電池は、FP-100iという105kWを出力するモデルに特化している。過去50kWから5000kWぐらいまでのものを作った実績もあるが、100kWぐらいの規模が最もコスト効率がよいということで、量産機このモデルに絞り込んでいる。

富士電機川崎工場敷地内で実際に稼働中のFP-100i
外寸は小さなプレハブ程度

 FP-100iの構造を例に、燃料電池の原理を見ていこう。まず原燃料は都市ガスがメインで、この中の炭化水素のメタン(CH4)から触媒反応で水素(H2)を得る。こちらが燃料極となり、電解質を通じて水素イオンが空気極へ送られる。

燃料電池の基本原理(出典:富士電機)

 空気極では、大気中の酸素(O2)と送られてきた水素イオンを化学反応させ、水(H2O)を得るわけだが、その際に電子の流れを得ることで電力を取り出すという仕組みだ。従来の発電機では化学エネルギーを一度機械エネルギーに転換しているが、燃料電池は化学エネルギーから直接電気エネルギーに取り出すため、高効率なのである。

 製品全体のシステムとしては、次の図のようになる。まず原燃料を脱硫器に通して、都市ガス特有の匂いの元となっている付臭剤を除去する。ガスはもともと無臭だが、漏れを人が検知できるようにわざわざ匂いが付けられている。これが発電には邪魔なので、除去するわけだ。

燃料電池のシステムフロー 図2 燃料電池のシステムフロー(出典:富士電機)

 続いて改質器でバーナーによる加熱で触媒反応を促進させ、ガスから水素を取り出す。この後CO変成器で副生物一酸化炭素を水蒸気と触媒反応させて、さらに水素と二酸化炭素に変換する。

 こうして得られた改質ガスを燃料極に流し込む。実際に電気を作り出す、いわゆる電池部分は薄い板状のセルで、これを積み重ねたものがセルスタックだ。ここで大量の熱が発生するので、それもエネルギーとして取りだしている。反応温度は触媒の種類によって変わるが、りん酸形ではおよそ200℃ぐらいになる。

内部構造図,内部構造図(出典:富士電機)

 FP-100iの場合、発電効率自体は42%だが、同じ規模のガスエンジン発電に比べれば10%程度高効率だという。さらに熱利用まで行えば、エネルギー変換効率としては91%に達する。なお副生物として生成される水の量は、1時間に15リットル程度。

 熱の取り出しに関しては、さまざまなパターンが可能だ。1つは高温排熱回収タイプで、90℃の温水を得る。これはセントラルヒーティングや、吸収冷温機を経由して冷房に使用できる。もう1つは中温排熱回収タイプで、60℃の温水を得る。こちらは給湯器としての利用が可能だ。さらにオプションとして、それぞれの温度を独立で取り出すこともできる。

熱利用も行うことで、エネルギー効率は91%にも達する 熱利用も行うことで、エネルギー効率は91%にも達する(出典:富士電機)

 燃料電池事業を指揮する、同社新エネルギー技術部長の腰一昭(こし かずあき)氏は、震災以降、分散電源に対する考え方が明らかに変わってきたと言う。

富士電機 新エネルギー技術部長 腰一昭氏

 同社燃料電池の納入は1998年から始まったが、当時分散電源に対する興味は、省エネ+省マネーであった。一方震災後は明らかに、電源確保が第一の目標に変わった。

 FP-100iはオプションで、LPガス(プロパンガス)からの供給もバックアップで受けられる。この仕様は、震災前はぜいたくだと言われた。そもそも商用電力系統も都市ガスのパイプラインも同時に崩壊するなどということが本当にあるとは誰も思っていなかったのである。だが震災後は、ガス供給もバックアップ体制があれば安心という見方に変わってきている。当然、家庭用エネファームなどと違い、常時自立運転が可能だ。

緊急時にはLPガスでも自立運転可能 緊急時にはLPガスでも自立運転可能(出典:富士電機)

 ちなみにLPガスの場合、一般家庭向けで使用される50kgボンベで約3時間、70kWの発電が可能だ。都市ガスの途絶を検知すれば、自動的にLPガス供給による発電に切り替わるのだが、電力の出力が30秒ほど停止する。これも無瞬断にならないかという要望もあり、現在方法を検討しているという。

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