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» 2012年07月25日 16時00分 公開

産業用燃料電池にエネルギーの未来を見る小寺信良のEnergy Future(19)(3/3 ページ)

[小寺信良,@IT MONOist]
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システム化で生きる燃料電池の特性

 富士電機の燃料電池は、病院など電源断が文字通り命にかかわる現場で導入されている。震災後もいつ計画停電に巻き込まれるか分からないということもあるが、何よりもお湯を大量に使用する病院は、熱利用の面でもしっかり無駄なく使えるからである。

 実際に実機が導入されている宏潤会大同病院のシステムフローを見てみると、燃料電池運用のポイントが見えてくる。こちらは、地上9階建て、診療科35、ベッド数404と、かなり大きな病院である。

 ここのポイントは、燃料電池とともにガスエンジンの発電機2基も併用しているところである。もちろん商業系統電力も使用しているが、これらの発電装置を併用することで、基本契約料金を抑えている。

ガスエンジンと組み合わせたシステム例 ガスエンジンと組み合わせたシステム例(出典:富士電機)

 効率のいい燃料電池は、ベース電力として常時稼働させる。というのも、燃料電池は点けたり消したりするようなものではなく、基本は稼働しっぱなしにするものだからだ。ただ出力は調整できる。最低に絞ると、出力は30kWまで下げられる。そして燃料電池で得た熱を温水として取り出し、熱利用設備に接続、一部は館内空調に使用している。

 一方ガスエンジンは止めたり動かしたりが容易なので、ピークカット用として平日の昼間のみ稼働させる。夜の使用電力はおよそ100kW程度なので、ほぼ燃料電池だけで賄える。

 2010年の稼働実績では、省エネルギー率は燃料電池のみで従来比23%、二酸化炭素の排出はガスエンジンも併用して同34%削減を達成した。

 燃料電池が病院に向いている理由は他にもある。エンジンの発電機では、まず騒音や振動が発生するので、発電機に近い病室は快適ではなくなる。

 燃料電池の場合は、発電時に振動はない。騒音も60〜65dB程度だ。過剰な熱を放出するために、不定期でファンが動くためである。唯一の難点は質量だろう。設備全体で15トンあるので、設置場所には1.2t/m2の基礎工事が必要になる。

各発電機の騒音レベル比較 エンジンを使う発電機と燃料電池の騒音レベル比較(出典:富士電機)

 東日本大震災の際、富士電機は義援金を拠出したのと別に、東北福祉大学にFP-100iを1台寄贈している。ここは老人医療の拠点にもなっており、人工透析なども行っているからだ。震災では一般の都市ガスの配管がダメになり、暖も取れない状況だったが、大口契約用の中圧管は地下深くに埋設されており、さらに安全対策も施されていたため、同大学で利用できたことも幸いした。もちろん排出される熱も空調で利用できたという。

 システムとして興味深い例では、ドイツのデータセンター向けに開発された燃料電池である。データセンターで使われる電力と比べて、100kWでは全然小さいのだが、そこには思いがけない利用方法があった。

 仕組みのところで説明したが、燃料電池の空気極側では、空気中から酸素を取り入れている。ということは、燃料電池を使えば空気中の酸素濃度が下がるということである。この原理を利用して、データセンター内の空気の酸素濃度を13%程度まで下げる(通常は21%程度)。そうなるとライターでも火がつかないほどの難燃状態となる。

 火災の発生を防止するという意味でも大きいが、このシステムにより消火設備を大幅に簡素化できる。さらには火災保険も大幅に安くできるといった経済的メリットも大きい。

 同様の効果を得る従来型の難燃システムは、わざわざ電力を使って窒素生成装置を動かしていたわけだが、燃料電池を使えば燃料は安いガス、しかも電力が得られる上に熱利用もできるということで、いいことづくしである。

 このシステムはドイツのN2telligenceという会社が特許を保有し、2010年から実証実験を行っている。ここに富士電機のFP-100iが採用されたのは、出力が100kWなので適度な低酸素状態が作れる規模だった、ということだ。

燃料電池の柔軟さと可能性

 現在、富士電機の燃料電池を使って、国内でいくつか別の原燃料を使った運用も行われている。山形と熊本では、下水処理施設の浄化過程で発生する消化ガスを使って、燃料電池で発電している。無尽蔵に発生する余剰ガスを有効利用できるだけでなく、二酸化炭素削減にも寄与するものだ。消化ガスの量が足りない場合は、都市ガスの混合も可能という柔軟設計だ。

 北九州で行われているのは、水素タウン実証実験である。

 これは製鉄所で発生する副産物としての水素ガスを、パイプラインを市街地に敷設して供給するというものだ。そもそも、燃料電池が都市ガスを使うのは、そこから水素を取り出すためである。それならば最初から純水素を投入すれば、さらに効率よく発電できる。しかも生成される二酸化炭素はゼロである。

 北九州に設置された改良モデルでは発電効率が48%と、都市ガスを使った場合の発電効率42%よりもよい数字が出ている。電力は近隣の博物館に供給され、排熱は冷暖房に利用されている。

「水素パイプライン」

 今後の展開として、水素パイプライン敷設というのは十分にあり得る話だ。実際にドイツなどでは、苛性ソーダを作るときの副産物として大量に生成される水素を販売するため、パイプラインを敷設している。他の工場がこれを安くで買い取り、燃料に使用しているが、ここに燃料電池を接続できるのではないか。富士電機では、北九州の実証実験の結果を以って、ドイツでの利用促進を働きかけていくという。

 さらに今後、燃料電池自動車が実用化されれば、「水素ステーション」が必要になる。

 そこで、都市ガスから生成した純水素を用いて燃料電池で発電した電力と水素ガスを、水素ステーションに同時に供給できるシステムを東京ガスが開発している。このシステムでは100kWの燃料電池を使っている。発電水素が必要なときには、発電出力を下げて余った水素を自動車に供給するというものだ。

 まずはタクシーやバスといった公共交通機関からの導入になると思われるが、現在のバスやタクシーがLPガスをチャージしているイメージに近いものになるのだろう。

 さて、富士電機が提供する燃料電池だが、産業用ということで導入コストはそれなりに掛かる。

 本体価格が標準で6500万円、本体と設置工事費用まで含めると、およそ8000万円ぐらいになる。条件がそろえば国や自治体から半分ぐらいの補助金が受けられるようだ。特に東京都の場合は医療施設の自家発電補助が厚く、最大で3分の2も補助を受けられるケースもある。そうなると自己負担費用は実質的に2700万円ぐらいに収まるので、病院などの医療機関にとってはかなりリーズナブルなものといえるだろう。

 富士電機が燃料電池のモデル数を増やさないのは、1モデルを量産することにより、さらなるコストダウンを目指しているからである。現在も、耐久性を上げてメンテナンス期間を倍に伸ばすことで、ランニングコストを下げる努力を続けている。一般に発電機の耐用年数は15年だが、現在のモデルの標準耐用年数は7.5年。消耗品交換のメンテナンスは毎年必要だが、1回セルスタックのメンテナンスをすれば15年動かせる。

 実はこなれた技術である産業用燃料電池。水素発生、酸素濃度の低減、排熱利用といった付加価値を上手く使えば、意外なところで意外な利用方法がまだまだありそうだ。

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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