清水氏によると、この他にも次のようなコスト低減案を検討しているという。
(2)については、前述の通り、現在でも一定の需要予測を行っており、ある程度は船便中心のロジスティクスで運用しているが、予測し切れなかった急激な注文の伸びに対しては、航空便を利用したイレギュラーな対応が発生してしまう。航空便による都度の輸送では製造コストが高まってしまうため、この割合をいかに減らしていくかがキーとなる。単純に部品在庫を増やしてしまうと、コスト低減には結び付かないため、過去の需要動向を照らし合わせた綿密かつ正確な需要予測をどこまで実現できるかが重要になる。
(3)については、部材在庫のサプライヤ保有分を増やす方法で、現段階でも一定の部材在庫をサプライヤ側倉庫に持たせているが、さらに多くのサプライヤが工場周辺で在庫を保有できるよう、支援していくなどの方法が考えられる。サプライヤ側からすると、こちらについても、ある程度の売り上げ見通しが立っている前提がなければ多くの部材を抱えておくことは難しいため、(2)と同様に、信頼できる部材調達の見通しを立て、サプライヤとの信頼関係を築く中で調整していく必要があるだろう。
HPでは個別の地域の財務状況を公表していないが、日本HPは「グローバルで見てもかなり優秀な位置にいることは確か」(岡氏)だという。
同社ではこうしたSCM上のコスト低減努力の他、輸送用パレットの段ボール化を進めるなど、細かなコスト低減努力が積み重ねられている。「段ボールパレットは、強度は通常のパレット同等な上、廃棄コストがあまり掛からない。通常の資源ごみ扱いで廃棄できるため、環境への貢献度も大きい」(清水氏)
日本HPは、グローバルでの動きとは逆に、東京生産による付加価値向上を目指してシェア拡大を進めつつある。現在、法人向けノートPCとしては2種の生産を進めているが、今後は他の機種についても順次東京生産を進めるとしている。
日本ならではの市場ニーズにフィットした製品づくりで、ノートPC市場でも、国内PCメーカーと並ぶシェアを目指していくという。
日本市場では、例えば顧客企業ごとに、管理番号を付けた状態や、所定のソフトウェアがプリインストールされた状態での納品を希望されることが多い。こうした細かな要求に素早く柔軟に対応するためには、完成品組み立て工場と顧客の物理的距離は最短であることが求められる。
この他にも東京生産の場合であれば、移送時に発生しがちな不良品の発生も抑えられ、結果としてコスト低減に貢献することになる。これらの事情はカスタム型のPC製造ならではの特性と考えられる。
日本HPでは、コスト低減の取り組みを徹底させることで東京生産を実現し、東京生産でなければ不可能なサービスを、商品の付加価値とすることでビジネスを成功させているといえる。事実、法人向けノートPCよりも前から東京生産を進めているサーバ機などの製品では、国内PCメーカーとシェアを争うまでになっており、法人向けノートPCも2011年8月の東京生産を契機に、国内での評価を高め、シェア拡大を目指していきたいとしている。
同社の取り組みはグローバルでのHP全体の中でも特異な位置付けにある。それだけ日本の市場が特殊かつ要求が厳しいといえるが、同社のこうした取り組みは、付加価値の高いモノづくりで国内市場を狙う@IT MONOist読者各氏にとっても参考となるものなのではないだろうか。
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