フィジカルAIで“負けるという選択肢はない” 日立のミッションクリティカル戦略モノづくり最前線レポート(1/3 ページ)

日立製作所は最新の研究開発成果に関する展示イベント「Technology Community 2025」を開催。同社 執行役常務CTO 兼 研究開発グループ長の鮫嶋茂稔氏は同イベントの基調講演で、同社の新経営計画に対する取り組みを研究開発の観点で紹介した。

» 2025年12月05日 08時00分 公開
[坪田澪樹MONOist]

 日立製作所(以下、日立)は2025年11月20日、同社の研究開発グループ 国分寺サイト(協創の森、東京都国分寺市)において、最新の研究開発成果に関する展示イベント「Technology Community 2025」を開催した。本稿では、日立 執行役常務CTO 兼 研究開発グループ長の鮫嶋茂稔氏による同イベントの基調講演の内容を紹介する。

日立の新しい経営計画「Inspire 2027」と研究開発の関わり

日立の鮫嶋茂稔氏

 日立グループは、2025年度から新しい経営計画である「Inspire 2027」を推進している。同経営計画では、「環境」「人々のウェルビーイング」「経済成長」が全て成り立つ社会を目指す「ハーモナイズドソサエティ」を掲げている。鮫嶋氏は「研究開発グループのミッションとして、日立グループの事業成長を支えていくのはもちろんだが、外部環境が変化する中で新しい転換点の創出や市場の開拓を具現化していくことを目指す」と語る。

ハーモナイズドソサエティのイメージ[クリックして拡大]出所:日立

 Inspire 2027の目標を達成するためのベースになるのが、日立グループの技術基盤である。同グループ全体で保持している技術を体系化し、互いに活用/統合していくことで、製品やソリューションの差別化につなげている。「われわれの技術基盤は、プロダクトからOT(制御技術)、ITまで幅広い分野にわたっており、日立がユニークな価値を実現していく力になっている」(鮫嶋氏)。

日立の技術基盤の種類[クリックして拡大]出所:日立

 近年、社会情勢として特に顕在化しているのが人口問題とAI(人工知能)の関わりである。熟練者の技能伝承ができない、さまざまな環境での労働力不足といった、生産年齢人口の減少に伴う課題が、多くの業界で共通して起こっている。加えて、社会インフラ自体も高度化しており、労働力不足に拍車を掛けている。

 鮫嶋氏は「労働力不足への対応でAI活用が期待されているが、信頼性などに課題が残っている。日立ではこうした課題に向き合い、技術の進展と統合によって解決を図っていく」と述べる。

日立「Lumada」は新しいフェーズ“3.0”に突入

 日立グループの成長エンジンであるデジタルソリューション群「Lumada」は、新しいフェーズである“3.0”に突入する。鮫嶋氏は「事業基盤であるプロダクト、OT、ITを生かしながら、Lumadaを拡大するためのAI技術開発を進めていく」と強調する。

 日立は、生成AIや言語モデルなどの新たなAI技術を生かした業務効率化の取り組みを「カスタマーゼロ」として自社で率先して行った上で顧客にも展開して行く方針である。例えば、AIエージェントを活用した企業ITシステムの革新などだ。

 実際に日立は東京大学と共同で、インターネットにある世界中のさまざまなデータを活用することで、特定事象の予兆を観測する経営支援システム「デジタルオブザーバトリ」の研究開発に取り組んでいる。

 「サプライチェーン分野では、企業間のつながりだけではなく、生産現場や物流のルートまで可視化することで、天候や紛争といった供給リスクを把握できる。さらに社内データも活用しながら、AIの分析を通じて経営リスクの可視化や施策のシナリオを提示することで、企業経営を強化できる」(鮫嶋氏)

デジタルオブザーバトリの詳細[クリックして拡大]出所:日立
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