フィジカルAIで“負けるという選択肢はない” 日立のミッションクリティカル戦略モノづくり最前線レポート(2/3 ページ)

» 2025年12月05日 08時00分 公開
[坪田澪樹MONOist]

フィジカルAIは“日本が負けるわけにはいかない”分野

 AIの話題として注目が集まっているのが、現実世界の製品の制御にAIモデルを適用する「フィジカルAI」の領域である。鮫嶋氏は「日立の強みは、ミッションクリティカルな社会インフラシステムを構築してきたことにある。そして、実世界にAIを適用することは日立が最も得意とする領域の1つである」と語る。

 日立では、インフラ設備の監視や制御といった分野にフィジカルAIを適合させることを目指す。生成AIの言語モデルと対応する形で「IWIM(Integrated World Infrastructure Model)」を構築し、日立のAIエージェントとフィジカルAIのソリューション「H-MAX」の展開を加速させる方針だ。また、ミッションクリティカルシステムで必須になる安全性を担保するガードレール技術の開発や利用者の受容性を向上させるデザインを組み合わせ、社会インフラの革新にも挑戦していく。

日立が思い描くAIビジョン[クリックして拡大]出所:日立

 鮫嶋氏は「フィジカルAI分野は、高品質なモノづくりという日本の持つ強みが生きる領域でもある。2025年のメジャーリーグのワールドシリーズでは『Losing is not an option』という言葉が大変話題になった。米中でAIが開発が進む中、フィジカルAIは“日本が負けるわけにはいかない”領域だと考えている」と強調する。

日立の中核分野ではフィジカルAIの取り組みを多数実施

 既にエネルギーや鉄道、インダストリーといった日立の中核事業分野では、フィジカルAIによる具体的な価値を創出し始めているという。

 エネルギー分野では、パワーグリッドのモデルを用いたシミュレーション技術にAIを統合し、電力系統の安定化ソリューションを開発。特に、再生可能エネルギーを系統に接続する計画策定プロセスにおいて80%の時間削減を達成し、現在は北米の顧客との協創を通じてグローバル展開を目指している。

エネルギー分野での取り組み内容[クリックして拡大]出所:日立

 鉄道分野では、車両や線路といった設備モデルと実測データをAIで処理し、運行や保守を効率化するソリューションをHMAXとして市場へ投入した。これにより、鉄道システムの安全性と定時運行性をさらに高いレベルへと引き上げている。

 モビリティ分野では、次世代の移動手段として注目を集めているエアモビリティ向けに、気象状況などの空間情報をデジタル化し、安全な航路を管制する技術「Digital Road」の開発を進めている。

鉄道分野でのHMAX活用事例[クリックして拡大]出所:日立

 北米に新設した鉄道車両工場については「Most Advanced Digital Factory」と位置付け、工場内の各種データを透過的に活用する仕組み「UDL(Unified Data Layer)」を導入している。ここでも自らをカスタマーゼロとして、AIを用いた安全支援や検査の効率化などに取り組んでいる。

北米工場に導入したUDLのイメージ[クリックして拡大]出所:日立

 インダストリー分野では、工場の設備や作業をモデル化し、進化の速いロボット技術と連携させることで、安全性と効率化の両立を目指す。エレベーター施工の自動化支援や物流現場の自動化といった形で、既に現場での導入が進んでいるソリューションも存在している。

フィジカルAIを活用した現場の安全性と省力化[クリックして拡大]出所:日立

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